前回は、子どもの頃に身につけていながら、大人になるにつれ封印してしまった能力「ノンネグレクテッド・タレント」がいかに50代から人生をリセットさせるのに重要かについて解説をした。今回はもう1つ重要な「能力の転用」という点について少し解説をしたいと思う。

他業種も変革させるトヨタ生産方式
他業種の血を入れて革新を続けるニトリ

 能力の転用というのは、言ってみれば会社に入ってから身につけた「大人Can」の応用である。たとえば、OJTソリューションズという会社がある。トヨタ自動車とリクルートグループがコラボレートした会社だ。簡単に言うと、トヨタ生産方式がさまざまな業種業態でも応用できるのではないかという狙いで設立された、生産性向上を指導するコンサルティング会社だ。トヨタ自動車の工場出身者で、40年以上の現場経験を持ち、マネジメント経験も持つトレーナーを派遣する。そう、この会社自体がミドル~シニアの活用事例なのだが、今回はその点が眼目ではない。

 部品点数3万点から4万点。重量1.5トンほど。価格は250万円くらいの商品で、ラインインからアウトまでの時間が短い。そうした特性を持つ商品、つまり自動車については定評のあるトヨタ生産方式であるが、全く違う特性を持った商品の場合でも生きるのか。流体制御に関してはどうだろうか。つまりは化学工場でも使えるだろうか。はたまたサービス業には応用できるのかと、半年にわたって私がまだ在籍していた当時の野村総研が分析を任されて、多くの業種業態でトヨタ生産方式は使えるとう結論を得て、本格稼働した。

 たとえばある農機具メーカーでは、創業時からのローラーイン生産からセル生産方式への転換によってリードタイムを21%も短縮することができた。またある印刷会社では、作業者の勘や経験で行われていた作業を標準化し、納期を守りつつ、顧客ニーズに合わせた多品種少量生産が可能となる仕組みを構築した。

 こうした事例からもわかるように、品質管理や生産管理などの技術やノウハウは、さまざまな業種業態に応用できるものなのだ。

 実は同社は、とある郵便局の業務改善にも取り組んだ。ベテランが観察すると、どんな業種であれ、わずかな時間の観察で、業務の無駄を省くための改善点を見つけることができる。実際に、その際には1時間程度の観察で、130点以上の改善点を指摘したそうだ。ただ郵便局の場合はオチがあって、「なぜ生産性を向上する必要があるのですか?」という質問を受けたらしい。「早く仕事が終わってしまっても困る」というわけだ。