「ロジック+腑に落ちる言葉」で
お客さまは応援団に変わる

新井和宏(あらい・かずひろ)
鎌倉投信 株式会社 取締役 資産運用部長
1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。1992年、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社。2000年にはバークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に入社。多岐にわたる運用業務に従事し、ファンドマネージャーとして数兆円を動かした。
2008年11月、志を同じくする仲間4人と、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い 2101」の運用責任者として活躍している。経済的な指標だけではなく社会性も重視する、投資先企業をすべて公開する等、従来の常識をくつがえす投資哲学で運用されている商品ながら、個人投資家(受益者)8900人以上、純資産総額130億円超(どちらも2015年2月時点)となっている。2013年には格付投資情報センター(R&I)でも日本一を意味する最優秀ファンド賞(投資信託 国内株式部門)を獲得。

新井 私も、伝えることには苦労しました。前に勤めていたバークレイズ・グローバル・インベスターズ(現在はブラックロック・ジャパン)は、ほとんどのお客さまが年金基金だったんです。つまりプロ対プロだから、なんの説明もいらない。たとえ「数式」でも通じるんです。でも個人相手だと違う。

出口 プロには当たり前のことでも、一般の方に伝えるのは本当に難しいと痛感しています。

新井 おっしゃる通りです。私たちも時間がかかりましたが、試行錯誤するなかで、気づきました。金融商品は、付け加えて、付け加えて、どんどん複雑にする。それによって利益をあげてきました。でもそうではなく、削ぎ落して、削ぎ落して、本質は何かが見えるようになった瞬間にお客さまは変わるんですね

出口 腑に落ちるのだと思います。腑に落ちていないお客さまは、違う話を聞いたら「そうなのかも」と思ってしまう。でも、腑に落ちたお客さまは変わらないのです。

新井 おっしゃる通りです。さらに、腑に落ちたお客さまは応援団になってくれる。でも対外的に見ると、宗教っぽいんでしょうかね(笑)。私は宗教ではなく、投資哲学への「共感」だと思うんですが。

出口 さらに大事なことは、本当に強い共感は、ロジックがしっかりしていないといけないそれをわかる言葉で伝えるからこそ腑に落ちるのです。ともすれば、人間の感情に訴えて終わり、になる。それだと、その瞬間は「ジーン」とくるけれど、残らないのです。

新井 数字については、いかにシンプルに伝えるか、が大事だと思います。どんな企業も、ならすと税引き後で約5%程度の成長をする。私たちの報酬1%を引くと、残り4%はお客さまの手元に残る。では、その4%はどのくらいリスクを取れば達成できるか。それがプロの技術です、と言えば「そりゃそうだ」となる。数字やファクトをわかりやすく伝えると、お客さまは疑う余地がなくなるんです

出口 そりゃ、そうだ。

新井 あともうひとつ。伝わるためには「覚悟」も必要ですね。やはりお客さまは、相手の覚悟を見ている。

出口 たとえば、毎日花を贈っても、それが本気か遊びか選別できる、という女性が多いそうです。「花を贈る」という行為は同じでも、相手を見れば、本気かどうかがわかると。
 新井さんがおっしゃっていることは、ベースに数字やファクトがきちんとあっても、覚悟があると伝わり方が違うということでしょうか。そして覚悟とは、本人がその数字をどれだけ確信しているか、自分でやる根性があるか、なのでしょう。

新井 やはり、人は「気」を感じるものです。ですから私は「覚悟」も数字やファクトで説明しました。たとえば「自分自身の財産もすべて『結い2101』に投資しました」とか。もちろん、投資の基本は分散投資なのでお客さまには勧められませんが、自分の覚悟は伝わる。覚悟を「見える化」してあげることが大事です

出口 数字やロジックをベースにものごとを考え、そこに全財産を入れておられると伝えれば、覚悟は目に見えるように伝わりますね。

(続く)

※次回は6月20日(土)掲載予定です。