「外科の先生が何で?」

 「患者さんは、ただの肺炎じゃないね、呼吸管理しないと」

 「この病棟には人工呼吸器ありませんよ」と看護師長。その横で男性患者のレントゲン写真を蛍光灯のシャーカステンに差し込む先生。

 「これ、両下肺野がスリガラス状で間質性肺炎かARDS(成人型呼吸頻拍症候群)の始まりじゃないの」と私。

 「ARDSですか」とK先生。

 「私、ICU(外科系集中治療室)に掛け合ってきます。K先生はすぐに動脈血ガス、胸部レントゲン、緊急血液検査を指示してください。そして患者さんの横で呼吸状態を観察して、いつでも人工呼吸できるように準備しておいてください」と私。

 当時ICUという重症管理室は心臓外科と消化器外科の術後患者を収容するために作られたユニットで、内科など一般病棟の重症患者は入所できず、すべて現場の病棟で治療し、医師や看護師の力量が患者の命の行方を決定していた。路上で倒れると救命救急センターへ運ばれ専門スタッフにより高度医療を受けることができるが、病院の片隅で倒れると、その担当科のスタッフに命を預けなければならない。ICUで私が内科病棟の男性患者の話をすると、「ICUは今満床ですよ。まして内科の重症者を入れるなら、内科から看護師さんよこしてくれないと勤務組めませんよ」とICU看護師長。

 「ちょっと、ちょっと、患者さんを見てくださいよ」とICUの看護師長を内科病棟へ連れて行った。一通り説明した後ICU看護師長は「あそこだと患者さん、助けられませんね。今回は…、外科の患者として収容します」とICUの入所が決定された。

 この男性患者は人工呼吸器を1週間ほど装着され、外科の私と研修医のK先生が主治医で治療にあたった。その後、快復したが、当時の上司から、「先生は病院中からお荷物を外科にもってくるね」と言われた。

 後に、その病院は新築され、院内で発生した救急患者はすべての科すべての医療者で対応し、ICUは重症度で入室が決まるようになった。今では「見てみぬ振りは許されない」医療が実行されている。