マッコイ・タイナーは、自身のピアノが最大限の自由度で飛翔できるよう最も信頼できる共演者を集めます。ロン・カーター(ベース)、ビリー・コブハム(ドラム)、ヒューバート・ローズ(フルート)です。この四重奏団を核として、管弦楽団と共演します。

 導入部はピアノと弦楽とフルートで始まり、室内楽的です。時を置かず、ベースが強力な律動を提示すると、微量のメランコリーを含んだ明快な主旋律が現れます。一陣の風に乗って、一気に高度を高める瞬間です。

 やがて繰り返し登場する主旋律と即興演奏により、音楽は徐々に緊張感を高め、興奮度を増します。無心で聴けば音楽的快感が湧いてきます。

至上の愛

 実は、マッコイ・タイナーが存在感を示したのは、ジョン・コルトレーン四重奏団に参加して以降でした。ジャズが苦手な人がイメージする、あの“ジャズの感じ”を完璧に体現しています。代表作は「至上の愛」(写真右上)。ジャズ名盤中の名盤で、その一翼を担っていたのがタイナーです。「フライ・ウィズ・ザ・ウィンド」を聴いた後で、勇気をもって聴けば「至上の愛」に美しき旋律の欠片を発見できるかもしれません。

 タイナーにとっては、友であり同志であり師でもあったコルトレーンが逝った後、ピアノ独奏でコルトレーンを追悼した「エコー・オブ・ア・フレンド」(写真右下)も、美しすぎる名演です。夕立の後に聴くとよいでしょう。

ハード・バップの王者が奏でる夏

◆フレディー・ハバード「ミストラル」

 夏と言えば、海・砂浜・空です。この音盤のジャケットはまさに夏そのもの。ロサンゼルス近郊の海岸を臨む見張り小屋とサーフボード。表題の「ミストラル」とは、地中海沿岸に吹く北西の強風のことで、暑い夏に吹く一陣の風を起こす音盤です。

 冒頭“サンシャイン・レディ”は、表題通り陽ざしの淑女が音楽から現れそうです。作曲は天才ベース奏者スタンリー・クラーク。かのアート・ペッパーも共演し、話題となりました。

 16ビートに乗るナチュラルな音色のエレキギターのアルペジオに乗って、ハバードのトランペットが品の良い旋律を吹き上げます。一点の曇りもない澄んだ音色は、マウスピースに吹き込む息を、正確無比に制御できる奏者からしか生まれません。低音から超高音まで間断なく響く音色が耳に心地良く、他の追随を許しません。高速パッセージも無理なく奏でます。