1つはお金である。店主たちからすると、暴力団員は「お得意さん」であり、店を守ってくれる「守護神」である。一方で、塾はお金を出すことをしない。社員たちは日頃から、周辺の店にはあまり行かない。

 双方は地域社会とのつながりや、そこで得る信頼関係の中身がまるで違う。暴力団員はすんなりと溶け込んでいるのに対し、塾にその姿勢はない。そこから、2つ目の理由である「感情」の問題が生じる。

 店主たちには、塾や社員は「新参者」であるにもかかわらず、自分たちの輪の中に入らない「生意気な集団」にしか見えないのだ。しかも、多くの子どもたちが地域に迷惑をかけ続ける。「店への営業妨害」とまで言い放つ店主もいる。だからこそ、筆者のような第三者に、塾の室長の発言や事件の詳細までをも平気で語るのだろう。

 世の中のタテマエは「暴力団追放」ではあるが、社会を丁寧に観察すると、ホンネとしてはそうとは言い切れない場合がある。むしろ、暴力団員以上に反感を買われ、憎しみに近いほどの怒りを向けられる人や会社がある。今回のケースで言えば、それは「純真無垢な子ども」であり、「教育熱心な親」であり、「躍進する進学塾」である。これは、メディアがまず伝えることのない企業社会の「裏側」ではないだろうか。

2. 会社は社員を守らない

 塾の室長は、「本部はいざとなると裏切る。社長や役員たちは信用ができない」と、店主たちに漏らしていたようだ。きっと、「社長や役員は社員を守るもの」と信じ込んでいるのだろう。

 だが、「社長や役員は社員を守る」というのはタテマエでしかないのではなかろうか。ホンネは、「会社が守るのは社長をはじめとした役員たち上層部」であり、「会社が守るのはあくまで会社」なのだ。リストラなどを見ると、それは一目瞭然だろう。悲しいことだが、これが現実なのだと思う。

 この記事に登場した塾長は30代半ばであり、そんな冷酷な現実をまだ受け入れることができないのかもしれない。今後は、そのことを心に秘めて、自らの身を守ることが必要だ。「会社は社員を踏み台にする組織であり、自らは歯車でしかない」とクールに捉えたい。そのほうが、いざとなったときに身を守ることができる。会社との関係についても、状況に応じて柔軟に考えることができる。タテマエとホンネを使い分けることも、できるようになる。