「伝説のアナザーネーム」(読売テレビ・日本テレビ系)で取り上げられた、某有名ホテルグループでMVP賞を受賞し、警察から「歌舞伎町のジャンヌ・ダルク」と呼ばれた名物支配人、三輪康子氏をご存じだろうか。
三輪氏のベストセラー『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』に収録されている数々のモンスタークレーマーとの闘いからクレーム対応の極意を語る企画。今回も、テレビドラマよりドラマチックなホテルで、すごいクレーマーが現れた!(初出:2011年7月19日)
有名ホテルグループで売上日本一の名物支配人
みなさんは、お客様に怒鳴りつけられたことがありますか?
無理難題を吹っかけられて悔しい思いをしたことはあるでしょうか。
きっとサービス業に従事している方なら誰でも、多かれ少なかれそんな経験をなさっていると思います。
レストラン、居酒屋、駅で働く方々……。現在は、町のお医者さんから学校の先生に至るまで、とんでもないクレームをつけられる。そんな時代になってしまいました。
確かに、筋の通ったクレームなら我慢のしようもあります。
でも、もしもまったくいわれのない恫喝や暴力にあってしまったら、そのあまりの理不尽さに胃がシクシク痛んだり、夜も眠れなくなってしまう方も多いのではないでしょうか。
そんな鬱々とした思いを日ごろ抱えていらっしゃるみなさんに、私の体験談をお話しすると、「元気になった!」「笑っているうちに悩みがふっとんだよ」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
なにしろ私はある有名ホテルグループのなかでも、大型ホテルの現役支配人(当時)。そこは全国展開されている支店中、何度も売上No.1になる繁盛店です。
しかも、場所は眠らない街、東洋一の歓楽街・新宿歌舞伎町。さまざまな人が、いろんなストーリーを抱えてやってくる人間の交差点なのですから。
今回は、『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』に収録した、新宿警察署に「歌舞伎町のジャンヌ・ダルク」と呼ばれ、警察から感謝状をいただいた私が、このホテルで本当に起きた、リアルな人間模様をお話ししようと思います。
190センチの大男が襲ってきた!
これは、ある日私が、お客様に日本刀を振り上げられたときの話です。
深夜、ホテルの上階で作業をしていた私に、フロントスタッフからの電話が入ったのです。
急いで一階まで降りて行くと、そこには190センチはあろうかという大男が私を待ち構えていました。
一目見れば、怒気が毛穴からもうもうと噴き出しているのがわかります。
この方は、ある暴力団の組員。私はその素性を知っていたため、一度宿泊をお断りしたことがあったのです。
ところが、それに激高して、再び深夜のフロントに押しかけてきたというわけです。
「俺がヤクザだからかよ。ああ、差別かよ、おい。客に向かって失礼だろうが、オラ」
「申し訳ありません。お泊めすることはできないのです」
私は、どんなに脅かされても「NO」を繰り返しました。
エレベータホールに仁王立ちになった男の眼だけが異様に光り、みるみるそれが血走っていきます。嫌な予感がしました。
男が茶色い紙袋からすらりと出したのは、抜き身の日本刀!
悲鳴さえあげることができず、スタッフは息を飲んで見守っていました。
驚きのあまりブルブル震えて泣いている者もいます。
私は、警察を呼ぶこともできたでしょう。
そのまま、エレベータにとって返して逃げ込むこともできたかもしれません。
なのに、私は無我夢中で男の前に一歩踏み出していました。
ちょうど男の懐に入るような具合です。
「お客様に、私は殺せません!」
意表をつかれたのは男のほうです。
「オイ。怖くねえのかよ……、俺が怖くねえのかよ……」
本当は怖いです。足元は震えていました。
「なんで、お前怖がらねえんだよ」
とっさに、私はこう答えていました。