「親族」に気に入らない人間がいたとしても、普段は、顔を合わせなければすむ。でも、相続の当事者同士になったら、話は別です。「自分のほうが高く『評価』されて当然」「あの人よりも取り分が少ないのは、納得いかない」と、時には人格やプライドをかけた揉め事になったりします。そんな幾多の「争続」に接してきた浅野和治税理士(浅野税務会計事務所)が語る、ドラマチックな「現場」とは?
再婚3年で夫が死亡
争いが勃発
八木 たぶん先生も、感情が先に立って揉めに揉めた相続というのを、数多く経験していらっしゃると思うのですが。
浅野 今までで一番「ドラマチック」だったのは、亡くなった男性の後妻と先妻が、遺産をめぐって争ったケースですね。被相続人は60代半ばで、後妻は
浅野税務会計事務所 所長
1956生まれ。明治大学卒業後、外資系会計事務所に勤務。その後父の会計事務所に入所、現在に至る。目黒区自由が丘に事務所を構え、地域柄、相続の問題に幅広く精通。顧客の発展を事務所の発展と捉え、相続税・所得税・法人税の縦横無尽な節税をオーダーメイドでプランニングし、顧客から絶大な信頼を得ている。
40歳前。前妻の元で暮らす被相続人のひとり娘よりも若かった。ところが、再婚後に被相続人にがんが見つかって、結婚生活わずか3年で亡くなってしまったのです。遺産は、自宅マンションと賃貸アパート、株などの債権に現金を合わせて、2億5000万円ほどありました。
八木 聞いただけで、争いの気配が漂います。
浅野 正確に言うと、戦いの構図は“後妻対独身のひとり娘”です。
配偶者は、離婚すると相続人ではなくなりますから、被相続人の遺言でもない限り、先妻には遺産をもらう権利がありません。でも、被相続人との間にできた子どもは、立派な相続人。民法の定めた法定相続分で分けるとすれば、配偶者すなわち後妻2分の1、先妻の子2分の1ずつになります。
さて、ご主人が亡くなり、私に相続税についての依頼をしてきたのは、後妻の方でした。お話をうかがうと、「生前、主人は、『今後の生活のこともあるから、遺産は全部お前に渡す』と言ってくれていました。でも、そういう遺言書を書かずに亡くなってしまったんですよ」とおっしゃいます。残念ながら、遺言書がない場合には、他の相続人にも法定相続分を相続する権利があります。そのうえで、「少しでも多くもらえませんか?」というお話でした。