連れ合いの親が亡くなって、相続が発生。そんな時、遺産の行方が気にならない人は、まずいないはず。実際、遺産分割協議の場に顔を出すような方も、少なくありません。ただし、「相続人の配偶者」が現場に「介入」した結果、話し合いがもつれて争いになることも。配偶者は、パートナーの相続をどう見つめるべきなのか、この分野に詳しい村越雅規税理士(MIRAI合同会計事務所所長)に聞きました。
「お母さん、そんなにもらっても仕方ないでしょう」
八木 私どものところにも、相続人の配偶者の方からの相談が、けっこう多いんですよ。どうも話がかみ合わないので、被相続人との関係を尋ねると、「実は長女の夫です」「末っ子の妻です」というパターン(笑)。でも、この方たちは、相続人ではありませんよね。
MIRAI合同会計事務所 所長
中央大学法学部を卒業後、全農に入社。約10年間のサラリーマン勤務を経て、平成8年、大原簿記学校の講師をしながらMIRAI合同会計事務所を開所。相続問題を得意とし、司法書士・行政書士等との豊富なネットワークにより、複雑な登記等の手続きから遺言書の作成、終活支援まで幅広くサポートしている。「被相続人と相続人の気持ちに沿った提案を!」をモットーに、生前の相続対策から相続発生後のご相談まで、何でもお応えする地域密着型の提案が強み。
村越 そう。残念ながら、相続人には、なりたくてもなれません。にもかかわらず、「あなた、もっともらいなさいよ」と相続人である夫の尻を叩いたり、中には遺産分割協議の場に、堂々と出てきたりする配偶者の方もいます。ちなみに、後者には男性つまり「相続人の夫」が多い、というのが私の実感です。
「夫や妻がもらう遺産のことなど気にするな」といっても難しいのは、分からないでもないんですよ。でも、だからといって、「配偶者が、相続人と同じ感覚で遺産分割などに口を出していいか」となると、話は別。それが引き金になって、相続人同士の揉め事に発展してしまうことも、よくあるのです。
八木 事例があれば、教えてください。
村越 お父さんが亡くなって、相続人は妻と娘のふたり。結果的に本格的な争いにはならなかったのですけれど、長女の夫が遺産分割協議の主導権を握った結果、相続人にとっては、やや不本意な相続になってしまった、という事例がありました。
私のところに相続税申告の相談に来られたのは、お母さんでした。お話を聞くと、「これからの生活を考えると、現金はできるだけ自分の手元に置きたい」「夫の生前、私が遺産の8割程度を相続することで、娘も納得してくれていた」と言うのです。ところが、実際に父親が死んで相続になったら、話が違ってきてしまった。
八木 「娘の夫」の登場ですね。その方は、遺産分割協議の場にも出てこられたのでしょうか?
村越 はい、最初から同席されました。そして、「お父さんの遺言書もないんだし、遺産は法定相続分通り、お母さんと妻で2分の1ずつ分けましょうよ」と言うわけです。お母さんは、「でも、老後が心配だから……」と抵抗する。ところが、そんな義理の母親に向かって、彼は「お母さん、そんなにお金をもらっても仕方ないでしょう」と言い放ったんですよ。
八木 本人の目の前で、ですか。
村越 「老い先短いのだから」と言わんばかり。あの時は、「何の権利があって、相続人に対してそんなことを言うのだ!」という言葉を押さえるのに、苦労しました。