日本人の平均寿命は、男性80.50歳、女性は86.83歳(2014年、厚生労働省調べ)――この差からも明らかなように、多くの場合、夫婦のうち先に逝くのは夫です。残されるのは、お母さんと子どもたち。彼女たちが新たな家族関係をどう切り結んでいくのか、最初の試金石は父親の相続です。そこでは、さまざまな「ドラマ」も生まれるとか。相続に実績を持つ村越雅規税理士(MIRAI合同会計事務所所長)に聞きました。

「子どもには渡さない」

父親の死で試される、残された母子の絆<br /><div class="special-box-body"><sub>~“大黒柱”が亡くなって、初めて露わになる母親の本心もある</sub></div>村越雅規氏
MIRAI合同会計事務所 所長
中央大学法学部を卒業後、全農に入社。約10年間のサラリーマン勤務を経て、平成8年、大原簿記学校の講師をしながらMIRAI合同会計事務所を開所。相続問題を得意とし、司法書士・行政書士等との豊富なネットワークにより、複雑な登記等の手続きから遺言書の作成、終活支援まで幅広くサポートしている。「被相続人と相続人の気持ちに沿った提案を!」をモットーに、生前の相続対策から相続発生後のご相談まで、何でもお応えする地域密着型の提案が強み。

村越前回の話にも出てきましたけど、相続には、両親のうちどちらかが先に亡くなって発生する一次相続と、残ったほうが亡くなる二次相続があります。たいていの場合、一次相続はお父さんですよね。

 一般論でいうと、一次相続は存命中の母親が目を光らせるから、子どもはそんなに好き放題言うこともなく、わりとスムーズに事が進んだのに、二次相続では、兄弟姉妹が骨肉の争いを繰り広げてしまう、というのが典型的なパターンです。

八木 “お目付け役”がいなくなるからですね。

村越 とはいえ、一次相続から揉め事になることも、もちろんあります。親の存在など関係なく子ども同士がいがみ合うこともありますが、本来目を光らせるはずの母親が、騒動の「主役」になることもあるんですよ。

 私が忘れられないのは、とにかくお金を貯めることに執着したお母さん。「1億円貯める」のが目標で、事実夫が亡くなった時点で、それくらいの貯蓄を築いていました。ところが、もう悠々自適の老後のはずなのに、夫の相続でも、できるだけ自分の取り分を多くしたいと、必死なんですね。息子と娘がひとりずついたのですが、「彼らにはできるだけ渡したくない」という姿勢がありあり。

八木 どうやってそんなに貯め込んだのですか? 夫の事業が成功したとか。

村越 いいえ、旦那さんはごく普通のサラリーマンでした。ひとことで言えば、とにかく出費を抑えることに執念を燃やしたんですね。親戚付き合いまで遮断して、冠婚葬祭も、一切「無視」です。子どもたちにも、学生時代には多少の援助をしたものの、あとは面倒をみなかった。結婚式の費用も、子どもができても……。

八木 それで1億円貯めたんですか(笑)。徹底してますね。