日本の農業問題について語られる時に、必ずと言っていいほど指摘されるのが、「農業従事者の高齢化」です。当然のことながら「農家の相続」も増える。その時ポイントになるのが、「農地」の扱い(評価額)であることは、言うまでもありません。普通の土地と異なる「特例」も設けられているようですが、実際はどうなっているのでしょうか? 農業相続に詳しい児島敏和税理士(税理士法人児島会計代表社員)にうかがいました。

キーになる相続税「納税猶予の特例」

「農業を続ける決意」も問われる農家の相続児島敏和氏
税理士法人児島会計代表社員
1944年生まれ。明治大学卒業後、1970年に千葉県船橋市にて税理士登録・開業をし、2011年に税理士法人児島会計を設立。現在、同法人の代表社員。(一社)全国農業経営専門会計人協会会員・専務理事、(公社)日本医業経営コンサルタント協会会員、MMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ)正会員など。関東を中心に、医療法人、中小企業、農業法人、社会福祉法人、公益法人、個人事業等幅広く業務を行う。

八木 児島先生は、農業相続も得意にしていらっしゃいますね。今月は、2回にわたって、そこにスポットを当ててお話しいただこうと思います。もちろん農家特有の問題もあるだろうし、一般の相続に通じる教訓も潜んでいる感じがするんですよ。

児島 そうですね。私の事務所は、東京都心から快速電車で30分程度の千葉県の船橋市にあるのですが、農家のお客様も多くいらっしゃいます。ただ、このあたりでは専業農家はほとんど皆無です。多くは賃貸マンションなどの不動産をお持ちの兼業農家です。ご紹介する事例などは、そうした「都市近郊農家」のお話だということを、最初にお断りしておきます。

 まず一般論からお話しすると、農業相続の大きなポイントは、相続税の「農地の納税猶予」の特例を受けるか?受けないか?です。

八木 どのような特例なのか、教えてください。

児島 農業を営んでいた親などから農地を相続する場合には、一定の相続税額を猶予する、すなわち「税金の支払いを繰り延べする」というものなんです。なおかつ、満たす要件によって異なるのですが、20年間農業を続けるか、または亡くなるまで続けた場合には、猶予されていた納税自体が免除されることとなります。

八木 それは大きいですね。

児島 ええ、農地は広いですから、相続税の額には大変な差が出ます。ただし、この特例の適用は「20年間の営農」ないし「終身営農」が条件だということ。もしも途中で農業をやめたりすると、猶予されていた税額に加えて利子税の納付が求められることになります。この特例は、相続税を納税するために農地が相続できず、農業を断念せざるをえない、といった事態を避けるために設けられた制度ですから、農業をやめた場合には通常の相続となるわけです。

 ちなみに、軽減効果が大きいだけに、この特例にはその他にも複雑な要件があり、その適用には細心の注意が必要になります。

八木 どんな税理士さんでも手に負える、という分野ではないわけですね。