2時間ほどかけて、2人は銅線ロールの在庫残高をすべて確認し終えた。
「これで銅線ロールは数え終わったな。帳簿と比べてどうかな?」
「かなり差がありますね。在庫は帳簿と比べて2割ほど不足しています」
「工場のほうの在庫は確認したの?」
「はい、ここに来る前に確認してきました。それを含めての結果です」
「やっぱりそうか。ウェイさんに確認しないとな。この不足分は金額にするといくらぐらいだろう」
「市場価格にすると、約20万元(約340万円)です。誰かが不正に持ち出している可能性もあります。まずはウェイさんに事実関係を確認してみましょう」
麻理と鈴木は、ウェイに会いに行った。
「ウェイさん、ちょっといいですか」
鈴木は流暢な中国語で声をかけて、ウェイのオフィスに入っていった。
「実は、銅線ロールの在庫が帳簿と合わないのです」
「あ、そう。どのくらい合わないの?」
ウェイはさして驚いた様子も見せず、聞き返した。
「銅線の全在庫の2割ほどです。金額にすると20万元(約340万円)ほどになります」
「なんだ、大したことないな。帳簿はそれほど頻繁に見直してないから、誤差の範囲内だろう。売るにしても、当面の生産に必要な分はちゃんと残しておいてくれよ。何しろ材料を調達するのも困難になってきているからな」
そこで麻理が尋ねた。
「資材の在庫は、定期的に帳簿と突き合わせているんですか」
「年に1回はしているはずだよ。監査の一環としてね」
「不足分を誰かが無断で持ち出した可能性はありますか」
「その可能性は否定できないね。誰もチェックしていないからね。忙しいから、もういいかね」
麻理と鈴木はまだ聞きたいことがあったが、ウェイは会話を打ち切って2人を追い出してしまった。2人はまた倉庫に戻り、他の資材の確認作業を続けた。
(毎週火曜日と金曜日に更新。次回は7月31日更新予定)