国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。

 
〈前回までのあらすじ〉総合電機メーカー・小城山(おぎやま)製作所に勤める丸山健太は、ある日、中国地方政府との合弁会社である小城山上海電機への出向を命じられる。総経理スティーブの右腕となって業績低迷に喘ぐ同社を建て直すのがミッションだ。健太は、顧問の瀬戸と橋谷麻理の協力を得て、生産品質改善のためのモデルラインの導入を提案する。

見え始めた生産の問題点

 それからの経営陣の動きは速かった。副工場長のチョウと開発担当の山田は協力して、チェックポイントを設置すると同時に、新しいラインリーダーにチェックの仕方を徹底させた。また、人事部長のホワンは、地元の工業学校の総務課に掛け合い、3シフト制導入に向けて作業員の手当てを行ってくれた。彼らの努力のおかげで、健太は1週間余りでモデルラインを稼働させる目途をつけることができた。

 健太が上海に到着してちょうど2週間が経った月曜日の早朝、スティーブはライン2の作業員を集めて訓示を垂れた。

「皆さん、今日からライン2は生産品質向上のためのモデルラインとして稼働し始めます。小城山上海がさらなる飛躍を遂げるためには、生産品質の向上が不可欠です。皆さんが率先して良い前例となってくれることを期待しています」

 新しく任命されたラインリーダーを含め、作業員は新たな取り組みに高い意欲を持っているようだ。その裏には、人事部長のホワンの発案で「不良率が半減したら、ラインの作業員全員に特別ボーナスを払う」とスティーブが宣言したことも大きい。

 朝8時のチャイムが鳴ると、モデルラインが稼働し始めた。

 各工程のラインリーダーは4~5名ほどのチームを率いて、ラインがつつがなく流れるように確認している。

 作業員は経験年数にばらつきがあり、年間30パーセントという離職率が一般的な中国の生産工場では、自分の担当業務に不慣れな作業員も多い。しかし、チョウのおかげで、ラインリーダーたちは困っている作業員を見つけるとすぐに指導を与えるように教育されている。また、自分の担当工程を厳しくチェックし、不良品を後ろの工程に流さないように意識づけされている。