瀬戸顧問の解説〈リーダーのスキル2〉
複数の経営課題に適切に優先順位をつける力
企業が直面する課題は、通常は一つでは済まず、複数の課題が複雑に絡み合っています。それらはしばしばトレードオフの関係にあり、ある課題に優先的に取り組もうとすると、他の課題への取り組みが劣後してしまうことがあります。リーダーには、トレードオフにある課題のそれぞれの重要性を見極め、正しい優先順位をつけて取り組むことが求められます。
小城山上海の場合も、生産品質の問題、製品開発の問題、調達コストの削減など、いくつかの経営課題に直面していましたが、それらを解決する前に、同社が資金繰りの危機にあることが判明しました。
米国では「キャッシュ・イズ・キング」と言われますが、企業はどんなに儲かっていても、資金繰りが続かなくなると破綻します。これが「黒字倒産」と言われる状況です。資金の確保は、まさに現在の小城山上海にとっての最優先課題なのです。
業績不振企業では、PL(損益計算書)の改善が真っ先に注目を集めますが、むしろ重要なのはキャッシュの確保です。小城山上海でも、PLの改善よりもキャッシュの確保を優先させなければいけない状況が今まさに発生しています。キャッシュを創出するためには、支払いのサイト(期間)を延ばしたり、売掛金の回収を急いだり、在庫の現金化を急いだりと、いくつか決まった方法があります。また、銀行から資金を借り入れている場合、BS(貸借対照表)の健全性も重要です。企業経営の基本はキャッシュフローですが、その裏では企業活動を支える収益力(PL)と、財務体質の健全性(BS)を維持・強化し続けなければならないのです。
小城山上海は、抜本的な収益改善策の一環として、サプライヤーとの生産品質の改善に取り組み始めたところでした。しかし、キャッシュを確保するためには、共同で品質改善の取り組みを始めたサプライヤーへの支払いも延期せざるを得ない状況に陥りました。これは、これまでの彼らの品質改善へのコミットを下げる大きなリスク要因となり得ますが、キャッシュの確保が最優先課題であることを健太とスティーブは明確にして、その方針をブラすことはありません。
トレードオフを伴う複数の課題の優先順位をつけることは、このように単純なケースばかりではありません。また、その優先順位がわかっていても、様々なしがらみに囚われて、正しい優先順位の通りに実行することが難しいケースも多いものです。リーダーとしては、そのような重要な意思決定の場面において、正しい判断を下し、その方針を明確に社内に伝え、速やかに実行に移すことが求められます。
もしスティーブや健太が優先順位を間違えていたら、小城山上海は間もなく破綻していたことでしょう。リーダーの経営課題における優先順位づけは、まさに企業の生死を分けるほど重要なのです。