国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。
荒れる定例報告会
定例報告会は毎週月曜日の午後5時から、2階の大会議室で行われる。
出席者は、進行役のスティーブを含めて総勢7名。東京本社からの出向者は、開発担当の山田光男と経理の鈴木順二。現地の経営陣からは、副工場長のチョウ、調達担当のウェイ、営業担当のミン、CFO(財務担当責任者)のリー。それに本日は瀬戸、麻理、健太がオブザーバーとして参加しており、3名の間には通訳の若い男性が座っている。
全員が幅7メートル、奥行き2メートルほどの長方形のテーブルを囲んで座ったのを見届けると、スティーブが広東語で話し始めた。
「それでは、定刻になったので今週の定例報告会を始めます。先週の実績報告を各担当者からお願いします。まずはミンさんから、顧客への出荷状況の報告をお願いします」
「先週の出荷量は前週比ほぼ変わらず1万0500台です。欧州向けの販売は依然低調で、今年は前年比で5パーセント減少の売上を見込んでおくべきでしょう」
「はい、それでは生産管理について、チョウさんからお願いします。不良率の高止まりが問題となっていますが、先週はどのくらいの水準でしたか」
「先週の不良率は2150ppmで、その前の週に比べて若干増えています」
すると営業のミンから、不良率の高止まりの状況についてクレームが出た。
「不良品が多発していることで、損害賠償リスクも高まっています。一刻も早く品質改善をお願いします」
「チョウさん、これまでの生産品質の改善策の検討はどうなっていますか」
「工場出荷前の最終検査を厳しくしていますが、そうすると生産が追いつかなくなります。ラインの作業員への指導を徹底しようと思います。また、返品された製品のうち、使えそうなものが5パーセントほどあるので、それを活用しようと思います」
「わかりました。引き続き品質改善策の検討をお願いします。それでは次に調達について、ウェイさん、お願いします」