国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。
新製品開発のリソースを確保せよ
「相談事って何だい?」
「1つ目は、新製品の開発を急ぐために、静音ルームの利用枠を拡大したいのです」
「その件なら山田さんにも来てもらおう」と、スティーブは内線で山田を呼び出した。
「山田さん、健太から新製品開発のために静音ルームを開放してほしいと頼まれたのですが、どのくらい枠を増やせばいいですか」
「現状は、出荷時のサンプル検査、返品された不良品の再検査、新製品開発の利用がそれぞれ3分の1ずつ使っています。開発を急ぐためには、今の倍近くの時間を確保する必要があると思います」
「それでは、新製品開発により多くの時間を確保するために、他のどの検査を減らせばいいと思いますか」
「出荷時のサンプル検査は必要です。もっと時間を使ってもいいくらいです。顧客から返品された不良品の再検査は、この際一時的にやめてもいいと思います」
「営業のミンさんに相談してみましたか」
「以前相談しました。ミンさんは顧客からのクレームを検査なしでは受け入れられないと言って、頑なに再検査の実施を主張していました」
「実際の検査結果はどうなんでしょうか」健太が質問した。
「顧客から静音基準に引っかかると言われて返品された製品のうち、社内検査をパスするのは5パーセント程度です」
「ミンさんからすれば、顧客への供給義務も重要だし、それが翌年の価格交渉にもつながってくるから、クレームを丸呑みしたくないんだろうね」とスティーブが中立的なコメントを発した。
「でも、それが返品の5パーセントほどなら、インパクトはさほど大きいとは言えませんね」
健太は新製品開発の枠拡大を支持した。
「私もそう思う。それでは、私からミンさんに説明して、返品の再検査を一時中断してもらおう。彼にとっても、新製品の上市が早まればメリットになるからね」
スティーブがミンと話し合うことを約束してくれた。