国内大手メーカーに勤める丸山健太は、あるきっかけで中国製造工場の建て直しを命じられる。企業改革どころかリーダーとしての経験もない健太だが、周囲のサポートを得ながら難局と向き合い、やがて3つのミッションを通して一人前のリーダーへと成長していく――。海外における企業再生や買収・事業統合等の現場をリアルに描いたビジネス小説『プロフェッショナル・リーダー』が発売された。本連載では、同書の「ミッション1」の全文を9回に分けて掲載する(毎週火曜日と金曜日に更新)。

中国の赤字工場を再生せよ<br />[第5話]調達コストの削減
〈前回までのあらすじ〉総合電機メーカー・小城山(おぎやま)製作所に勤める丸山健太は、ある日、中国地方政府との合弁会社である小城山上海電機への出向を命じられる。総経理スティーブの右腕となって業績低迷に喘ぐ同社を建て直すのがミッションだ。顧問の瀬戸と橋谷麻理の協力を得て生産品質の改善に目処をつけた健太は、次に新製品開発のテコ入れに着手する。

新製品開発のリソースを確保せよ

「相談事って何だい?」

「1つ目は、新製品の開発を急ぐために、静音ルームの利用枠を拡大したいのです」

「その件なら山田さんにも来てもらおう」と、スティーブは内線で山田を呼び出した。

「山田さん、健太から新製品開発のために静音ルームを開放してほしいと頼まれたのですが、どのくらい枠を増やせばいいですか」

「現状は、出荷時のサンプル検査、返品された不良品の再検査、新製品開発の利用がそれぞれ3分の1ずつ使っています。開発を急ぐためには、今の倍近くの時間を確保する必要があると思います」

「それでは、新製品開発により多くの時間を確保するために、他のどの検査を減らせばいいと思いますか」

「出荷時のサンプル検査は必要です。もっと時間を使ってもいいくらいです。顧客から返品された不良品の再検査は、この際一時的にやめてもいいと思います」

「営業のミンさんに相談してみましたか」

「以前相談しました。ミンさんは顧客からのクレームを検査なしでは受け入れられないと言って、頑なに再検査の実施を主張していました」

「実際の検査結果はどうなんでしょうか」健太が質問した。

「顧客から静音基準に引っかかると言われて返品された製品のうち、社内検査をパスするのは5パーセント程度です」

「ミンさんからすれば、顧客への供給義務も重要だし、それが翌年の価格交渉にもつながってくるから、クレームを丸呑みしたくないんだろうね」とスティーブが中立的なコメントを発した。

「でも、それが返品の5パーセントほどなら、インパクトはさほど大きいとは言えませんね」

 健太は新製品開発の枠拡大を支持した。

「私もそう思う。それでは、私からミンさんに説明して、返品の再検査を一時中断してもらおう。彼にとっても、新製品の上市が早まればメリットになるからね」

 スティーブがミンと話し合うことを約束してくれた。