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「合意」と呼ぶには際どい決着だった。EU首脳会議は、条件付きでギリシャへの融資を認めた。ギリシャが「緊縮財政を受け入れる」と妥協した時点で、合意は見えていた。「融資打ち切り」はユーロから放逐するに等しい。国民投票で勝った首相が、命乞いに等しい譲歩をしているのに、冷酷な決断を下せばどうなるか。貸したカネは戻らず、ユーロ体制に亀裂が走る。その責任はEU強硬派向けられユーロの傷は修復不能になる。

 ギリシャは追い出さず、厳しい条件で縛る。ドイツはそんな筋書きを書き、その通りの結果になった。「ユーロは当面の危機を脱した」と市場は評価したが、そうだろうか。

 ギリシャ問題は首脳など政治家のレベルを超え、今や民衆の対立になった。「怠け者を救うことに税金を使うな」と叫ぶドイツ国民がメルケル首相に強硬姿勢を強いている。「処方箋は債務減免」という債務問題のイロハさえ論外とする雰囲気だ。

 ギリシャの民衆は反ドイツに傾き「メルケルは更なる苦難を強いるのか」と怨嗟の声が上がる。債務問題の解決は「譲り合い」しかないが、負担を嫌う民衆の声が政治家に妥協の道を与えない。

 二つの世界大戦を経て欧州の知性がたどり着いた「統合の夢」は、不寛容な民意に翻弄され、分裂の危機を孕んでいる。

ドイツとギリシャは民衆対立へ
わずか2日で法案成立を要求

 15日までに緊縮財政を実行する法律を立法化せよ。合意の陰でドイツの強引な要求がギリシャを攻め立てた。合意を即刻法案化し、国会で審議し、可決させる。国論が割れる決定を2日で済ませとは、法治国家の常識を無視した要求だ。条件とは名ばかり、「命令」である。ギリシャ議会を軽視し、言った通りの法律を作れ、有無を言わさず呑ませろ、と言っているようなものだ。成熟した民主主義を標榜する欧州とは思えない乱暴な振る舞いである。

 EUは各国対等、互いに尊重し合うことを原則としていたはずだ。だがドイツなどにはギリシャに対する抜きがたい不信がある。もはや仲間と思っていない。

 債務交渉の途中で国民投票に訴えるなど言語道断という。だがティプラス政権は「緊縮財政反対」を掲げて政権を取った。過酷な要求を突き付けられ、ハイそうですか、と呑めない。国民に意思を問うのは筋の通ったやり方である。