7月5日に行われた国民投票で、欧州連合(EU)などが支援の条件とする緊縮財政にNOを突き付けたギリシャ国民 Photo:AP/アフロ

「ギリシャ国民はなぜあんなに自分勝手なのか」とドイツ人は怒っている。しかしながら、ギリシャ人にはギリシャ人なりの反論があるようだ。アテネ在住の数人に話を聞いたので紹介してみよう。納得し難い説明もあるが、債権団側とギリシャ側の感覚のズレを知ることは非常に重要と思われる。

 第一に、ドイツ人は、ギリシャ人の借金に関するモラルの低さにいらついているが、ギリシャ人は次のように反論する。「かつての汚職まみれのギリシャ政府に多額の賄賂を送って財政支出を拡大させ、財政悪化の中で大もうけしてきたのはドイツ企業ではないか」。

 ギリシャの信号のほとんどはドイツ製で、軍事関連の受注額の上位3社もドイツ企業が占めてきたという。散々おいしい思いをしておきながら、そのツケをギリシャの低中所得層に回すのはおかしい、という理屈である。

 第二に、ギリシャ人は自分たちは怠惰ではないと主張する。実は労働時間はユーロ圏内でギリシャが一番長いからだ。2013年の経済協力開発機構(OECD)調査33カ国の中で、年間労働時間はギリシャが2位(2037時間)、ドイツは32位(1388時間)だ。

 英国放送協会(BBC)系の雑誌が以前、「そんなはずはない」と疑問を感じて統計を精査した。しかし、ギリシャの労働時間の長さは揺らがなかった。賃金水準が低いので、二つ目、三つ目の仕事をこなさないと生活費を賄えない人が多いのである。

 第三に、大多数のギリシャ人は、09年ごろに比べて収入が既に半分以下に減っている。しかも、収入の上位10%の人々よりも下位10%の人々の方が大幅に減少している(OECDデータ)。「低中所得層からこれ以上むしり取るのはむちゃだ」との悲鳴が出ている。

 第四に、「脱税があまりに多かったからこんな事態に陥ったのだ」との批判に対しては、次のような釈明が聞かれた。「ギリシャがオスマントルコの支配下にあった400年間は、真面目に納税しなければならない義理はなかったため、4世紀にわたって人々に脱税文化が染み付いてしまったのだ」。