「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。

「複雑な評価システム」が社員の不満を生む悪循環

 LINE株式会社の人事評価はきわめてシンプルです。
 いわゆる360度評価。社員一人ひとりが、それぞれの上司、同僚、部下から多角的な基準で評価してもらいます。そして、「いなくてもいい」と評価された人には、改善を求める。そんなシンプルな仕組みを採用しているのです。

 実は、LINEが生まれる以前は、非常に複雑な人事評価システムを採用していました。何十個も評価項目があって5段階で自己評価する。それを上司が再評価して、合計点を出す。そして、部下と面談して評価結果を伝える……。人事評価への不満が社内の士気に大きな影響を与えると考えて、そのような精緻な評価システムを採用したわけです。

 ところが、これが非常に評判が悪かった。
 まず第一に厖大な手間がかかります。
 現場の社員も何十項目もの評価票に記入するのでたいへんですが、何よりマネジメント層に負荷がかかる。部署によっては、1ヵ月間くらい人事評価にかかりきりになる上司もいました。

 しかも、社員の満足度が低い。「この項目は1だけど、この項目は3だ。トータルでいくつだから、がんばりたまえ」などと言われても、ちっともピンときません。具体的にどうすればいいのか、わからないわけです。

 さらに厄介なのは、この評価システムを攻略しようとする社員の存在です。
 たとえば、たいして仕事には打ち込まないけれど、やたらと上司とお酒を飲みにいく人がいます。すると、上司も「コミュニケーション力」の項目を高評価にしてしまうわけです。一方、真剣に仕事に向き合って結果も出しているけれど、“飲み”の付き合いをしない社員の「コミュニケーション力」は低い評価になる。

 そんな評価に納得できる人はいません。
 複雑な評価システムにすればするほど攻略法は増えますから、逆に結果を出している社員の不満は高まるという本末転倒な状況が生れるわけです。

 まさに悪循環。
 厖大な時間を費やして、不満を生み出すシステムだったのです。