不正会計の報告書が提出されたことで、東芝は、社内の抜本改革を進める必要に迫られている。創業以来の危機からの復活は図れるのか。見通しに明るい材料は決して多くない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、鈴木崇久、森川 潤)
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「やり残したことは、大変残念ですけれども、いろいろあります」
7月21日の記者会見。質問者の意図をかわすように、本心を見せなかった田中久雄前社長が、最初に本音をのぞかせたのが、東芝の構造改革への未練だった。
「常に、当社の収益はNANDフラッシュメモリ(の一事業に依存していた)と指摘を受けてきた。柱を増やしていきたいと話していたが、その途上だった。やり残した中で、収益の柱を最終的には5本にするよう新しい体制で進んでもらいたい」
近年の東芝は、世界でもトップシェアを争う半導体のNAND型フラッシュメモリが、常に2桁以上の営業利益率を誇る収益の柱だった。もう一つの中枢事業が電力を中心とする電力社会インフラだが、原発事業については伸びは見込めず、そもそも利益率も決して高くない。
そして何より一番の問題は、他にめぼしい成長事業がないことだ。
これは2005~09年に社長を務めた西田厚聰元社長が推し進めた「選択と集中」の結果ともいえるが、田中氏は西田氏に指名される形で、13年に社長に就任して以来、収益の柱をつくり出すことに力を注いできた。
だが、「ヘルスケア、インダストリアル(産業)、コミュニティ・ソリューションなど3事業が束になっても、一本という形にはならない」(田中氏)のが実情。唯一、有望視されていたのは医療機器を中心とするヘルスケア部門だが、現状売上高が約4500億円と、全体の1割にも達していない。
しかも、東芝の得意とするCT(コンピュータ断層撮影)など画像診断は、世界的な競争がすでに飽和状態に達しつつある。
東芝は、21日に取締役16人のうち、8人が辞任したが、たとえ社内の不正体質を一掃し、透明性の高い経営陣を選んだとしても、地に落ちたブランドイメージはおろか、事業という面でも、“復活”するのは決して楽ではないのだ。
東芝は、8月中旬までに、新経営陣を選ぶが、それまでの間、暫定的に指揮を執るのが、室町正志社長兼会長だ。室町氏は、今回の不正会計を受け、他の取締役同様に辞任の意向を示していたが、元社長の西室泰三・日本郵政社長に「絶対に辞めないでくれ」と引き留められたことで、東芝のトップの立場に座ることになった。
とはいえ、社内取締役のうち3分の2が引責辞任する「解体的出直し」は、難航が必至だ。
そもそも事業に取り組む前に、証券取引等監視委員会による検査や、刑事責任の可能性、また東京証券取引所における「特設注意市場銘柄」の指定など、乗り越えるハードルが山積みだ。不正会計は、市場関係者や社内からもさらなる責任の追及を求める声が大きく、これで幕引きとなることはまずないだろう。
「唯一の救いは、今なら、これまで冷遇されてきた『上に盾突ける人材』がまだ社内にいる。彼らに活躍してほしい」と、元東芝の幹部は話す。元幹部たちのプレッシャーを一掃した上で、新たな世代が台頭してこないと未来はない。
東芝が、新たな風土を築いていけるのか、破滅の道を歩んでいくのか。まだ、先行きは誰にも見えていない。