従来のレジスターが、プリントされた用紙を必ず上か手前方向から排出するのには、ちゃんとした理由がある。横からスライドさせると紙詰まりを起こしてグチャグチャになるのだ。だから、現場の技術者は全員が全員反対したが、「妥協から生まれるものは、さらなる妥協しかない」と天毛氏は頑として譲らなかった。

 後に、「映画『2001年宇宙の旅』に登場する黒い石柱状の謎の物体・モノリスを彷彿させる」と評された、そのフラットな長方形のスタイルを絶対に実現したかったという。「もし、縦置きのままだったら、今回のレッドドット受賞はなかった」と、天毛氏は言う。

 写真ではわかりづらいが、ブレインレジスター(タブレット)の画面は可動式で、縦方向に180度回転させることができる。これによって店員だけでなく、客の方にも画面を見せることが可能になった。上下が逆になると、自動的にそれに合わせて画面が切り替わる機能を持つタブレットの特性を活かしている。

「『あれもこれも』は絶対にやりたくなかった」

世界56ヵ国1994の企業やデザイナーから応募があったRed Dot Award。今年は日本の4企業が受賞したが、日本勢の受賞が0の年もある

 天毛氏が掲げたもうひとつのデザインコンセプトは「機能美」だった。多機能になればなるほど、操作も形状も複雑になっていく。無駄な機能を削ぎ落とし、レジに本来必要不可欠な機能だけに絞っていった。余分なものをそぎ落としていくと、結果的に形はシンプルになり、それが美しさへと昇華された。機能がデザインを決定し、デザインが機能を表現する――そんな関係性をレジに求めたのである。

「このシンプルな形を見て、操作が難しそうとは誰も思わないでしょう」

 世界に通用するメーカーを作ることを決意してから約20年。今回の受賞で、まだ歴史も浅いスモールカンパニー、ブレイン株式会社は、“世界の入口”にようやく立つことができた。