「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。

「あれもこれも」全部やるのは戦略ではない

  経営はわかりやすさが大事──。

 これは、僕が経営に携わってきて学んだことのひとつです。

「あれもこれも大事」と経営がわかりにくいメッセージを発すると、現場は混乱します。最も大切なことだけを、シンプルにわかりやすく伝える。これが、組織の力を最大限に発揮させるうえで、きわめて重要なのです。そもそも、戦略とはそういうもの。「あれもこれも全部やる」というのは戦略ではない。絞るのが戦略なのです。

 このことを痛烈に学んだのは、僕がハンゲーム・ジャパン株式会社に入ったころのことです。
 日本テレビ時代にMBAを学んだ僕は、さまざまな経営指標や分析手法を使って戦略を立案しようとしました。SWOT分析、ROA、ROE……。しかし、誰も理解してくれませんでした。いや、理解しようとすらしてくれなかった。

 当然です。彼らはゲームづくりのプロ。そもそも、そうしたことに関心がない。「そんなことより、とにかく“いいもの”をつくることが大事じゃないの?」。そう言われて、目からウロコが落ちました。まったくもって正論だったからです。

「経営学」を学ぶと、いろいろな知識がつきます。
 それは、経営者にとっては重要なものです。しかし、それを現場と共有することに意味はありません。むしろ、彼らの仕事を邪魔するだけなのです。

 レストラン経営を想像するとわかりやすいと思います。たとえば、キッチンで働いているシェフに、さまざまな経営指標や分析結果を伝えることに意味があるでしょうか? そうしたものに目を通して、あれこれ考えているうちに、料理が冷めてしまうだけです。

 そんなことよりも、「とにかくおいしい料理をつくってほしい」と伝えることに徹したほうがいい。そのレストランがうまくいくかどうか。それは、結局のところ、出している料理がおいしいかどうかにかかっています。おいしければお客さんは食べてくれるし、まずければ二度と来店しない。それだけのことなのです。

 企業経営も同じです。現場には「おいしい料理」=「いいもの」をつくることだけに集中してもらえばいい。それ以外のことは、すべて余計なことなのです。