世界経済の軸は、いまアジアにシフトしつつある。日中・日韓関係が悪化するなか、日本はどんな歴史認識を持てば、アジアでの立ち位置を強固なものにすることができるだろうか。前回に続き、外交の第一線で活躍した田中均氏、藤崎一郎氏、宮本雄二氏の外務省OB3人が、徹底的に討論した。(インタビュー・構成/『週刊ダイヤモンド』論説委員 原 英次郎、撮影/住友一俊)

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日中韓の関係は悪化したまま
「村山談話」の本当の意義

――国際秩序は今、大きな転換期にあるということですね。その中で、アジアの安定を考えると、アジアの大国である日中韓の関係が悪化したままです。改善の障害になっているのが歴史認識、いわゆる歴史問題です。

宮本 やはり日本が近隣諸国、とりわけ中国さらには東南アジアを侵略したという事実について、明確な認識がないと歴史認識問題は前に進まない。誰が他人の家に土足で上がり込んで、そこに住んでいる人に痛みを与えたのか。上がり込んだのは我々。そのことについて、我々が反省するのは当たり前のことです。

 にもかかわらず、一部の政治家から、近隣諸国に反省していないと思われるような言動が飛び出すことで、日本政府が何度もお詫びしているのに、そう受け取られないという不幸な状況が続いてきた。

ふじさき・いちろう
上智大学国際関係研究所代表(前駐米大使)。1947年生まれ。69年 慶應義塾大学経済学部中退、外務省入省。アジア局外務参事官、北米局長、外務審議官、在米国特命全権大使などを経て12年退官。13年より上智
大学特別招聘教授、慶応大学特別招聘教授 

藤崎 私が一番問題だと思うのは、日本において歴史教育が高校までの間に十分行われていないことです。大切なのは明治維新以降の日清、日露の両戦争、その後、日韓併合があり、満州事変があり、日中戦争、そして米国との太平洋戦争へと続いていく近現代史を知ること。

 若い人を含む今の多くの日本人には、そのあたりの歴史がスポンと抜けている。その歴史を知らないと、近隣の韓国や中国が、なぜ日本に対してこういう感情を持つかが分からない。結果、短絡的にヘイトスピーチなどに結びついてしまう。相手の立場にも立ってみることがお互いに必要だが、そのためには基本的知識が欠かせません。

――田中さんは戦後50年に当たる1995年に、村山富市総理(社会党委員長)が出された「村山談話」にも、関わっておられますね。

田中 大事なことは2つある。1つは個々人の歴史観、歴史認識は人によって違ってよいけれども、村山談話の意味は、政府の認識としては言葉のごまかしのないものをつくり、それを次の政府が継承していくことによって、日本政府の基本的な方針としていきたいということでした。