外食業界に、禁煙・分煙化の波が押し寄せている。
第1波は、神奈川県の「受動喫煙防止条例」。公共的空間や施設での喫煙規制で、この4月1日に施行される。知事の認定を受けた会員制バーなどは規制除外。キャバレーなど風営法に掲げる施設や、調理場面積を除いた床面積が100平方メートル以下の飲食店などは努力義務にとどまった。しかしその他は禁煙・分煙化が必須。従わなければ飲食店の場合、来年4月から罰則が適用される。
この条例に対応し、日本マクドナルドは3月1日時点で、全面禁煙店舗を神奈川県内、全298店に拡大。顧客の反応を見て分煙店舗の導入も考えるほか、他県での同様の展開も検討していくという。
ロイヤルホールディングスも同日、神奈川県内、グループ全59店舗の全席禁煙化を終えた。そのうち、傘下のロイヤルホスト16店舗は全面改装などに伴い、3月末までに喫煙ルームを設置する。全面改装は2011年12月末までに県内外175店舗で実施予定だ。
一方、喫煙ニーズが高い居酒屋チェーンでは、そう簡単に事は進まない。白木屋などを展開するモンテローザなど大手は11年3月末までに、神奈川県内の店舗を条例に則して分煙対応していく考えだ。
居酒屋チェーンは、05年にワタミが出した全面禁煙居酒屋が1年で撤退を余儀なくされるなど、禁煙店舗の多くは存続自体が難しいとされる。分煙対応したとしても、条例に則した禁煙面積を設けると「実験では売り上げは3割ほど落ち込む」(居酒屋チェーン関係者)というから、ただ事ではない。
しかもこの条例における分煙への設備投資は、多額のコストがかかる。居酒屋チェーンの多くはビルのテナントとして出店するが、その形態では「平均して500万円超、多いところでは1000万円近くかかってしまう」(同)。
禁煙・分煙化の第2波はいつ来てもおかしくない。厚生労働省は今年2月25日、「原則として全面禁煙」を求める通知を出した。当通知はあくまでも努力義務だ。しかし、2月に飲食店の受動喫煙防止に一律の規制を敷くのは現実的でないと検討会で結論が出た東京都ですら「通知は重く受け止めている」という。
通知への対応のあり方は、各地方自治体に委ねられている状態。せっかく従っても、神奈川県の規制が標準規格になるとは限らない。それどころか、「下手に分煙設備に投資しないほうがいい。世界の流れからいけば、いずれ分煙も認められなくなる」(政府関係者)との声も上がる。流れを読み違えれば、波にのまれることになるだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)