「まさか完全に供給が止まるとは、想像もできなかった」──。
8月12日に発生した中国・天津の大規模爆発事故から、1カ月余り。想定外の影響に、日本肝臓学会事務局の幹部はそう嘆く。
英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)が、国内で販売する新しいB型肝炎治療薬「テノゼット」。日本向け製品を“唯一”製造していた同社の天津工場が被災し、9月9日現在、操業再開のめどさえ立たないのだ。
服用者は約7000人で、残る在庫は8月末時点で2カ月分だ。
「数日前まで現地への立ち入りも許されず、詳しい被害状況は不明だが、機械を入れ替えて、一から再開を目指すことになる」とGSK。目下、海外から緊急輸入するための調整に動いているが、現時点で見通しは立っていない。
B型肝炎ウイルス(HBV)の国内感染者の割合は、およそ100人に1人。総数は約130万~150万人に上る。このうち約1割が慢性肝炎を発症、さらに一部が肝硬変や肝臓がんに移行する。
主に慢性肝炎を発症した患者に処方されるこの抗HBV薬は、昨年5月に日本で発売されたばかり。薬剤耐性が出にくいとされ、日本肝臓学会は、治療で最初に選ぶ「第一選択薬」にテノゼットを指定していた。それまで唯一の第一選択薬だった米ブリストル・マイヤーズの「バラクルード」に比べ、妊娠中の患者などにはより安全とされ、医療関係者や患者の期待も高かった。