これまで多くのビジネスマンを悩ませる病気を患者の目線から紹介してきた本連載。今回からは不定期になるが、病気に苦しむ人々を救ってきた“医師の姿”と、医師の目線から見た病気の“本当の怖さ”を紹介していきたい。今回取り上げるのは、製薬会社役員であり、自身も外科医である柴田高氏。柴田氏は「医療の現場は戦場」と話し、“見えない敵”の怖さとそれらへの挑戦を語ってくれた。

「医療の現場は戦場」
“戦死”した同僚のために立ちあがれ

柴田高/医学博士。1956年生まれ。81年に大阪大学医学部外科に入局。その後市立豊中病院外科部長に就任。現在は医師を続けながら家業である大幸薬品の副社長を勤めながら開発の最前線に立つ。

 柴田氏の同期であった医師の何割かは、肝炎などの病に倒れ、40代の若さで亡くなった。日本の平均寿命を考えたらありえない若さである。

 医局へ入局した当時から柴田氏は思っていた。「がんやウイルスなどの“生命の敵”と最前線で戦う医療の現場は“戦場”だ」と。ギブアップしたら死が待っているだけ。夜も昼もない“戦場”の毎日では、安らかにベッドで寝ることもままならなかった。

 配属されたのは消化器外科。肝臓がんの患者の手術を数多く担当した。肝臓にメスを入れると大量の血液が噴きでることが度々あった。中にはB型、C型肝炎の患者さんも多い。肝炎ウイルスの混じった血液を手術室で浴び、肝炎になった医師もいた。

「戦場の最前線で戦う医療関係者と、患者さんをウイルスから守りたい――」亡くなった同僚のためにも見えない敵『ウイルス』と戦う覚悟を決めた。

ウイルスの感染経路に着目
新型インフルエンザの流行を防げるか

 ウイルスと戦うにあたり柴田氏は、まずその性質に着目した。ウイルスは単独では生きていけない。絶えず人間などの生物の細胞内で増殖していく。しかし、感染前に一時身体から離れるときがある。