『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第134話は、大学受験における「東京大学」の立ち位置について考える。
「独自の強み」が際立たせる“東大ブランド”
東大合格請負人・桜木建二は、理事を務める龍山高校の買収をもくろむ投資家と面会する。国際的なリーダーを育成する学校にしたいという投資家に対して、桜木はあくまでも東大合格者数が学校の価値を決めると言い張るのだった。
教育業界では近年、少子化を背景とした経営の大転換や再編が相次いでいる。ベネッセによるデジタルハリウッド大学の運営法人の子会社化や、東京工業大学と東京医科歯科大学の統合といった大学レベルの動きだけでなく、大学法人が安定した入学者確保のために中高一貫校を吸収合併して付属校化する事例(中央大学による横浜山手女子学園の合併など)がある。異業種の民間企業による通信制高校の買収・新規参入など、高校経営における再編も活発化している。
各校が生き残りをかけて海外大学進学や総合型選抜といった従来の枠にとらわれない多様な進路を売りにするようになった。だが皮肉なことに、それらが「独自の強み」として着目されること自体が、日本の教育界において東京大学を中心とする価値観がいまだに主流であることを裏付けている。
もちろん、個別の学問領域や研究分野を見渡せば、東大より優れた実績を持つ大学や研究機関は多数存在する。しかし、受験産業全体がこの頂点に向けた巨大なピラミッド構造を形成しているのが現実だ。
仮にアメリカやイギリスのように、国内に東大レベルの大学がもう1つや2つ存在していれば、受験生にも「自分はあえてこちらを選ぶ」という主体性が生まれるだろう。しかし現状では、進学校において「なんとなく東大を目指す」という姿勢が成立してしまう。
「東大合格者数」偏重が変わらない理由
『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
18歳という若さで独自の進路を切り拓き、その結果が吉と出るか凶と出るかは誰にも予測できない以上、結果的に長いものに巻かれたとしても、それは決して非難されるべきものではない。
結果的に、学校や塾を評価する上で最も「まし」な客観的指標が東大合格者数になってしまっているのだ。少子化が加速する中、この硬直化した構造は本来変わらなければならない。
しかし、いくら高校や大学側が多様な価値を提示しても、東大合格の体験談や実績を最大の広告塔とする受験産業のビジネスモデルそのものが変わらない限り、そこを頼りにするマス層の行動原理が大きく移動することはないだろう。
とはいえ、変化の兆しや土台が全くないわけではない。2010年代に見られたトップ層の地方国公立医学部へのシフトや、近年の情報系学部への圧倒的な人気集中など、時代の波や経済状況に合わせて受験生の動向は確実にマイクロチェンジを繰り返している。
さらに近年はSNSの普及により、このピラミッド構造の外側で独自の生き方を開拓する人々の姿が容易に可視化されるようになった。在学中から独自のWebサービスを立ち上げる学生起業家や、あえて休学を選択してワーキングホリデーやバックパッカーとして世界を巡り多様な価値観に触れる人、あるいは地方創生に関わり地域ビジネスを始める人など、そのロールモデルは多様化している。
周囲を見渡しても、この構造の中に身を置きながらも「せめて自分自身のキャリアだけは、他人のまねではなく真剣に考えよう」と模索する人間は確実に増えてきていると感じる。
マスとしての強固なピラミッド構造が明日、劇的に崩壊することはなくとも、1人ひとりのミクロな意識変化の積み重ねが、いずれこの構造全体を緩やかに変容させていくのではないかという希望的観測を抱いている。
『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク







