「新・三本の矢」の下、大変革を遂げようとしていた日本企業にとって、東芝の不正会計はとんだ“冷や水”だった−−−。こう苦言を呈するのは、4年連続でR&I優秀ファンド賞を獲得中の「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さん。一方、鋭い視点で隠された事実を探り出し、フェイスブックやツイッターなどのSNSで積極発信してつねに注目を浴びているのが実業家で人気ブロガーでもある山本一郎さんだ。いったい企業はどこでどう間違えて不正に走るのかについて、卓越した洞察力の2人が大いに熱弁を振るい合った。(取材・構成/大西洋平 撮影/和田佳久)
バブルとは日本株ではなく
“官製相場”の中国上海市場
藤野 僕が7月末に『日本株はバブルではない』というタイトルの著書を出版したら、その1ヵ月後から株価が急落したんです。もっとも、日本株には問題があったからではなく、中国の上海市場がバブルで、その影響を被っただけの話ですけど。
山本 やっぱり、6月に中国の政府当局が売買停止措置に踏み切った段階で、これはマズイって感じでしたね。以来、香港にお金を置いて上海市場に投資していた海外の投資家たちはみんな逃げ出した。不動産にどんどんお金を注ぎ込んでいた人たちまで株に乗り換えてきていましたが、連中はみんなわかっているから、マズイと思ったら逃げ足が早い。
藤野 わずか1年のうちに、株価指数が2倍に化けちゃっていましたからね
山本 本来なら、あれはありえない話ですよ。国策による“官製相場”だったわけですから、そもそも長続きするはずがありませんよね。
藤野 確かにそうですね。中国株はバブルでしたが、日本株は、バブルではない。僕は今もそう主張したいです。
先日の新刊の中で、アベノミクスが放った「新・三本の矢」が日本企業を変貌させるということを強く訴えました。
「新・三本の矢」とは、
(1)機関投資家の行動規範を示したスチュワードシップコード、
(2)上場企業の行動規範を示したコーポレートガバナンスコード、
(3)外国人投資家も熱く注目する「伊藤レポート」です。
特に「伊藤レポート」はアベノミクスの成長戦略の核心部分を担うものであって、その指針に従って上場企業と株式市場が変革を進めていくはずなのですが、個人投資家にはまだ意外と知られていません。
担当編集 この記事の読者のために捕捉しますと、「伊藤レポート」は経済産業省が公表したもので、一橋大学大学院商学研究科伊藤邦雄教授が座長となってまとめられたため、そう呼ばれています。
正式名称は「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜」で、その中でも指摘されているように、今後も日本企業が成長を遂げるためには、「持続的に資本効率を高めること」が重要だと藤野さんは訴えているわけですね。