村上ファンドの村上世彰さんの長女、村上絢さん(C&IホールディングスCEO)と、日本株の投資信託で有名な「ひふみ投信」のファンドマネジャー、藤野英人さんの対談後編。前回は、この伊藤レポートが出され、それに伴って「コーポレートガバナンス・コード」、「スチュワードシップ・コード」が施行されたことにより、日本経済が新たな局面を迎え、変化が起こりつつあるという内容だった。
今回は、C&Iホールディングスの黒田電気への提案の内容、真意、そして今後のことなどをうかがう。

黒田電気に投資した理由と、臨時株主総会に至った経緯

藤野 では、いよいよ黒田電気の話をうかがいたいんですけど。

村上 これまでの話で出てきたコーポレートガバナンスや機関投資家の責任についての話などは全部この黒田電気の案件につながっています。黒田電気は国内トップの電子部品商社で、売上高3000億円、経常利益100億円ほどのきわめて優良な会社です。

 我々が株を取得し始めたのは昨年末くらいからで、その時にはPBR(株価純資産倍率)1倍割れ、ネットキャッシュ(現金・預金、有価証券などの金融資産から有利子負債を引いた金額)が時価総額30%くらいと、こんなに割安な会社があっていいのかなという思いでした。

 また、2012年12月にはPBR0.6倍とかなり割安にもかかわらず転換社債(株に転換できる社債)を発行していました。つまり株を増やして現金を調達しているのです。この時には現預金が100億円程度あったので、そんな安い水準で転換社債を発行する必要はなかったと思うのですが……。

藤野 PBRが1倍を割っているということは会社の資産より低い値段が付けられている。本来の会社の資産があるのに、経営や従業員がいることによって、その資産価値よりもマイナスだと市場からは評価されているわけです。それは会社の人たち、特に経営陣の価値が否定されているということであり、本来は屈辱的なことです。

村上 そんなに割安な株価になっているのなら本来は自社株買いをすることが合理的な資本政策で、グローバルにもよく行われていることです。しかし、黒田電気が行ったのはその逆の行動でした。こうしたことが株主価値を損ねて株価低迷も続いていると思いましたし、こんな話が通るなんて株主の目線に立ったガバナンスが効いているとはいえない状態です。

 そこで自分たちが株主として、少しでも黒田電気の経営陣に株主の目線を持ってもらえるよう対話することで企業価値向上につながるんじゃないかという判断で投資を始めました。

 経営陣の方々とはすでに、転換社債発行の件、自社株買いや配当性向など株主還元、さらに業界再編による企業価値向上の話を一つ一つ紐解きながらお話しさせていただきました。

 しかし、「PBR0.6倍で増資したことの何がいけないのか」という反応だったのです。また私たちとしては業界再編によって同社の企業価値は大きく向上すると判断して提案しましたが、そのことについても聞く耳を持っていただけませんでした。

藤野 それは残念な対応でしたね。

村上 そこで私たちの会社は8月21日に臨時株主総会を招集することにし、黒田電気に社外取締役4人の就任を提案することにしました。それにより実現したいことは、
「不合理な資本政策を正すこと」
「十分な株主還元をすること」
「業界再編に向けた行動を起こすこと」
の3つです。

藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)。1966年、富山県生まれ。90年早稲田大学法学部を卒業。国内、外資系運用会社を経て2003年8月レオス・キャピタルワークスを創業、CIO(最高運用責任者)に就任(現任)。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネジャーとして豊富なキャリアを持つ。現在、運用している「ひふみ投信」は4年連続R&I優秀ファンド賞を受賞、さらに「ひふみ投信」「ひふみプラス」を合わせたひふみマザーファンドの運用総額は600億円を超えている(2015年6月現在)。ベンチャーキャピタリストであり、自身がファウンダーでもあるウォーターダイレクトを上場させ、現取締役。 また東証JPXアカデミーフェロー。明治大学商学部兼任講師。主な著書には『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)ほか多数。

村上 絢(むらかみ・あや)
1988年生まれ。父は村上世彰氏。慶応義塾大学卒業後、モルガン・スタンレーMUFG証券に勤務後、C&I Holdingsに入社。2015年、同社の代表取締役に就任。日本では珍しい「アクティビストファンド」の責任者として、企業価値を向上させるために企業の経営者と対話を心掛けている。また日本への寄付文化を根付かせたいという父の意思を継ぎ、支援を必要としている非営利活動団体やプロジェクトをつないでいくプラットフォーム、NPO法人 チャリティ・プラットフォームの代表理事に就任。
C&I Holdings http://c-i.bz/
チャリティープラットフォーム  https://www.charity-platform.com/