徹底的に解明すべきは
不正に至ったメカニズム

山本 米国のエンロン(簿外債務隠蔽)事件も然りで、本当に解明すべきは不正が発生するに至ったメカニズムです。

 その“仕組み”という部分において、今回の東芝問題ではどういった不正が行われてきたのかについては明るみになってきましたが、具体的に誰が「数字をいじれ!」と命じたのか、「もっと勉強しろ!」と強要したのか、不正のメカニズムの詳細について突き止めなければなりません。

藤野 まったく、「勉強しろ!」とはえげつない命令だよね(笑)。

山本 ホント、すごい表現ですよ(笑)。

 それで、とことん勉強して最も善処した人間が経理部門で最も出世したりするわけです。ともかく、3人の歴代相談役が云々といったことばかりが取り沙汰されていますが、それよりも東芝という組織全体として、なぜガバナンスが働かなかったのか、チェック機構にどのような欠陥があったのかを解明しなければ、今後の教訓にはなりません。それをしないと、また違う企業で同じことが起こってしまうことになりますよね。

 その意味では、マスコミをはじめとする“見ている側”のリテラシーも相当試されていると言えるでしょうね。個人の話や組織の人間関係といった「東芝特有」の話に落としてしまうと、かなりの部分を見誤るのではないかと思います。

藤野 ホント、そのとおり。それぞれの人たちはどういった人間模様でどのような派閥闘争を繰り広げてきたかといった話にとかく焦点が当てられがち。ドラマ仕立てで、まるで半沢直樹の物語に近いですよね。

山本 だけど、そのような話に終始してしまうと、我々が同じ轍を踏まないために、自分たちのビジネスに置き換えてどこをどう改めるべきかが掴めない。誰々が悪い、誰々が責任を取るべきだという話に辿り着きがちで、まったく教訓にはならないわけですよ。

藤野 何度も言いますけど、僕にとって、東芝の問題はかなりのショックでしたね。『日本株は、バブルではない』なんてタイトルの本を出した直後に株価が急落したことなんてどうでもいい話で、「新・三本の矢」が揺らいでしまうことが恐ろしい。8月末以降、外国人投資家が日本株を売ってきたのは中国景気減速などの海外問題が主因でしょうが、東芝の問題の影響もけっしてゼロではないはずです。

東芝は侘寂(わび・さび)の境地で
代々の経営陣が不正を踏襲した?

山本 ただ、私はファンドを運用している海外の投資家からよく話を聞くのですが、彼らいわく、「日本はまだまだマシ」とのことですよ。たとえば、イタリアの上場企業には一族経営のところが少なくなく、個人のカネなのか会社のカネなのかの線引きがつかないようなケースもよく見られるそうです。そして、地元の名士にカネをばらまくようなことが平気で行われているから、東芝のほうがまだはるかにマシだということらしいです。

藤野 先日、とある中国の投資家が来日して面談したんだけど、その席で彼がこう言っていました。「中国は国から中小企業に至るまで、すべてがエンロンです」と(笑)。要するに、ウソの情報で資金調達し、無理矢理にでも利益をつけて再びファイナンスし、ヤミ金融を通じてそのカネが闇経済にも流れ、やがてはそれが表の社会にも還流していく仕組みになっているわけですよ。しかも、上から下まですべてがそうなっている。

山本 日本国内では金融庁や監査法人が目を光らせていて、銀行の融資基準が厳しくなって大変だという話を聞きますけど、「貸し手責任」も「返済する確たる意志」もはっきりしない中国の有り様を見ているともはやどうでもいい気がしてきますね(笑)。

藤野 よく週刊誌とかに社長の豪邸なんて記事が載っているけど、中国と比べたら慎ましやかなものですよ。東芝の重役たちにしても、別に私利私欲を貪っていたわけじゃない。

山本 東芝という組織の長である限り、不正を踏襲するしかないと言ったような感じで、どこか侘寂(わび・さび)のようなものさえ感じてしまいますね。代々にわたって申し送られてきたことは、前任者の責任を問われないようにきちんと引き継がなければならないという暗黙の了解があるんです。

 だから、路線変更を行う際には必ず相談役にお伺いを立てる。そして、企業として稼げている間は、それが不正であると薄々分かっていてもいじることは許されない。きれいに隠蔽されるわけです。当事者たちに口裏を合わせさせたうえで、IR担当が出てきて三文芝居を打つ。ガバナンスという観点が欠落すると、会社は誰のものかというアタリマエの哲学がなおざりにされて、簡単にそのようなことが起きるということですね。

続く