映画の世界で大ヒット映画の続編がつくられて、成功する事例はごく稀である。同じ監督、同じスタッフが製作しても、時勢を味方につけなければ、成功はしない。安倍首相も、アベノミクスというヒット作に恵まれて、9月24日に記者会見を開き、続編の製作発表を行った。もっとも、筆者はその予告編を見せられただけで、かなり食傷気味になってしまっている。本稿では、新しい三本の矢を吟味して、その建て直し案を検討する。
現在の1.2倍に
名目600兆円は高望み
新しい三本の矢とは、(1)強い経済、(2)子育て支援、(3)社会保障の3つである。それぞれ目標として、名目GDP600兆円を目指す、出生率1.8人を目指す、50年後に人口1億人を維持する、介護離職ゼロを目指す、などの数値目標が掲げられている。
個別に見ると、名目GDP600兆円は、現在の500兆円を1.2倍にする目標である。首相の任期中の2018年度を期限にするのならば、毎年平均5.2%成長率が必要である(図表1参照)。2020年度を期限にすれば、3.4%成長を必要とする。私たちの給与水準が3年後、あるいは5年後に2割増しになるのと同じことだと表現すれば、現実味が薄いことがわかる。何よりも、どうやって名目GDPを現在よりも100兆円を増やすのかという具体策を示してほしい。からくりを示さずに、名目所得を劇的に増やすと決意表明しても、熱意は正しく伝わらない。
少し驚くのは、「強い経済」に関連して財政再建の必要性がクローズアップされなかったことだ。先進国中で最も巨大な政府債務の負担を抱えているわが国が、財政問題を抜きにして、「戦後最大の国民生活の豊かさ」は語れないはずだ。日本の津々浦々に高速鉄道を張り巡らしても、それが政府債務を累増させてしまっては、正当化しにくい。