ミッションは成功したけれど…あすみ怒る！
数日後、はるかは業務報告をするために昌一郎の元を訪れた。
「あ、あすみ。来てたの？」
「当たり前じゃん。はるかの報告会でしょ。何となくは聞いてるけど。やっぱり気になるじゃん」
そんな会話をしていると、会議を終えた昌一郎が社長室に入ってきた。
「お、はるか。お疲れ様。どうだった」
はるかは『味樹園』での取り組み内容と結果を詳細に昌一郎に話した。
「なるほど。全て宇佐美君からの報告と同じだな。ということはがっちりと一枚岩になって取り組めたということだ。偉いぞはるか。で、今回は何を学んだんだ？」
「うん、学びが多すぎてよくわからない。でも一歩間違ったら失敗していた気がする。というか、昌ちゃんの最初のセッションがなかったら、まず失敗していたと思う」
「まぁ、それはそうだろうな。でも、それを結果に結びつけたのは、はるかの取り組みだからな。よくやったと思うよ」
「昌ちゃんのサポートも上手く流れてるんでしょ」
「うん、まだ具体的な物件はないが、これまでの成功要因の分析から出店候補地の選定、新店舗のモデル構築、それに付随する様々な仕組み作りが出来てきてるよ。
やっぱり宇佐美君はＫ’ｓの出身だけあるなって思うよ。Ｋ’ｓにとっては惜しい人材だよ。ま、そういう人間しか独立して上手くいかないんだけどな」
「うん、ホントすごい人だよね。宇佐美社長って」
「お？ はるか、もしかして？」
「いやいや、違うって、やめてよ昌ちゃん」
「お？ 赤くなってんじゃん」
「もう！ 知らない！」
「2人で盛り上がってるとこ悪いんだけどさ」
あすみが憮然とした表情で、語気を荒げながら割って入ってきた。
「ん？ どうした？ あすみ。そんな怖い顔して」
「は？ っていうか、何それ？ パパの最初のセッションってどういうことよ？ 何ではるかとパパが一緒に仕事進めてんのよ。ちゃんと説明しなさいよ」
「いやいや、それはその……」
「あ、昌ちゃん……ちょっと。あ～あ…」
「何それ？ どういうこと？ はるかも。それって、2人で内緒にしてたってことだよね。ちゃんと説明してよ！」
あすみが顔を真っ赤にして、2人に食ってかかってきた。
「ついつい口を滑らせちゃったな」
「やっちゃった。やっぱりこうなっちゃったね……」
「さも分かってたかのように。その態度、許せないよ。ちゃんと話して！」
「いや、あのな。今回、はるかが初めてということと、正式にＫ’ｓとして受けたコンサルティング依頼だったってことで最初のセッションはパパが直接やったんだよ。それをはるかにバトンタッチしたんだ」
「私はそんなの聞いてない。じゃあ、何？ 2人で私に内緒で仲良くやってたってことなの？ それって、どうなの？」
「いやいや、あすみ、そんな怒ることじゃなくない？ 別に昌ちゃんだって悪気あったわけじゃなくて、仕事としてそうしただけだし」
「違う。そういうことじゃない。私は未だかつて一度もパパにサポートしてもらったこともないし、実際のパパのセッションなんて見たこともない。 ただ単に、あっち行け、こっち行けってほっぽり出されただけ。それで今まで歯を食いしばってやってきたよ。それを何？ 今回は2人で仲良くセッションって。いい加減にしてよ。ふざけないで！」
「そう怒るなよ。今回と今までとは仕事の受け方が違うということだけだ。それがたまたまはるか一人のタイミングに当たったってことだけだ。そんなに怒ることじゃない」
「納得いかないわよ。私は今までこんなに頑張ってきたのに。はるかばっかり甘やかして。こんなの、はるかが1人で作った結果じゃなくて、ただのラッキーとパパの甘やかしによる当然の結果じゃん。全く意味ないよ」
「は？ 何よそれ？ いったい何が言いたいの？ パパと一緒にやれなくて僻んでんの？」
「あんたこそ開き直って何言ってんのよ。私はこんな結果、認めないって言ってんの！」
「はん！ 別にあんたに認めてもらいたくてやってんじゃないっつうの！」
「2人ともやめなさい」
「パパに言われる筋合いないよ！」
「いい加減にしないか、あすみ！」
昌一郎は珍しく声を荒げた。
あまりの語気の強さに、2人とも何も言えなくなってしまった。
「いいか、あすみ。パパがセッションするという話をお前にしなかったことに怒るのは、感情を考えると理解できる。
しかし、今回のミッションは立派なＫ’ｓの仕事なんだ。しかも、私が直接受けた仕事だ。それ以上でもそれ以下でもない。悪意も他意もない。分かったか？」
あすみは黙って下を向いていた。
怒りを抑えるというより、涙をこらえているようだった。
「いつまでも子どものようなことを言ってるんじゃない、あすみ。お前も来年には社会人になるんだろ。しかも、うちの会社に入って……Ｋ’ｓに入るってことは、会社では私とお前は親子じゃなくなるということだ。そんな態度、二度と取るな。感情を抑えて冷静に話をすることを覚えなさい。わかったか？」
昌一郎はそう言って、うつむいたままのあすみにハンカチを差し出した。
それを見たあすみの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
そのハンカチは、高校生の時にあすみが昌一郎にプレゼントしたものだった。
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