世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。

【美食家が熱中!】高級店巡りより面白い、地方の食を知る意外な方法Photo: Adobe Stock

大人が通う「小学校」って?

 食を通して知的好奇心を育み、人生を豊かにしていく。そのために、本書でご紹介した地域を調べ、レストランへ足を運ぶのはとても有意義なことだと思います。

 しかし実はもっと手軽にガストロノミーツーリズムを楽しむ方法があります。「食の熱中小学校」というものを利用することです。

 現在、私がこの校長を務めているので宣伝臭く聞こえるかもしれませんが、実際に、私自身、このコミュニティに参加したことで地方の食の豊饒さを身をもって実感したのです。

 まずは、成り立ちからご説明しましょう。
 奇妙なネーミングですが、参加しているのは大人です。もともと、廃校になった地方の小学校を利用して講演会(授業)を行ったり、地域の人材育成や異業種間交流などを行おうと2015年から始まった「熱中小学校」というプロジェクトがあり、「食の熱中小学校」はそのひとつです。

 現在、「熱中小学校」は日本に15か所、アメリカ・シアトルに1か所あり、彼らと交流していくうちに「地方には素晴らしい食文化があるのに首都圏にはまったく知られていない。だったら首都圏に食文化に特化したコミュニティを作って、地方と交流し、魅力を発信していこう」となって、2023年秋に東京に「食の熱中小学校」が開校し、現在は5期目(半年間コース)です。

 具体的には、次のようなことをしています。

・食に精通した講師による月1回の座学講座(オンラインもあり)
地方現地実習ツアー

設立者の堀田一芙さんも「ヘンタイ」

 食の熱中小学校が開校した当時、私は会社を辞めて独立したばかり。設立者の堀田一芙(かずふ)さん(日本IBM元常務)に誘われたのですが、ボランティアの事業で、座学の講師を見つけなきゃいけない、現地実習ツアーにも参加しなくちゃいけないなんて、独立開業したばかりの自分には余裕がないと、最初はお断りするつもりでした。

 ところが実際にお会いしたら、見事、堀田さんのペースに乗せられ、校長に就任。そればかりか積極的にツアーにも参加しているから、縁とは不思議なもの。この巻き込み力を見ても分かる通り堀田さんも一流の「ヘンタイ」でしょう。

 食の熱中小学校の座学では、本書でもご紹介した里山十帖の岩佐十良社長アル・ケッチァーノの奥田政行シェフ桝田酒造の桝田隆一郎社長一本杉川嶋の川嶋亨店主VISONの立花哲也社長齊藤啓輔余市町長など錚々たる方々にお願いしてご登場いただきました。

 もう1つの柱、「現地実習ツアー」は、大手旅行会社が行うような一流料理店や神社仏閣をツアーガイドが案内してくれるような華やかなものではありません。しかし各地にいる地元に精通した仲間たちが、普通では行けないようなところに連れて行ってくれるのです。

元漁師の町長が町案内。伊勢海老漁へ参加、町長宅で伊勢海老鍋を満喫

 たとえば和歌山県すさみ町へのツアーがありました。すさみ町は人口4000人にも満たない小さな町で、私も行く前は名前すら知りませんでした。

 ところがこのツアーは、参加者数人のためになんと岩田勉町長自らが町を案内してくれたのです。しかも、町長は元漁師です。早朝に伊勢海老の刺し網漁の船に乗り、獲れた魚を朝から鉄板で焼いて食べ、魚出汁の利いた味噌汁を飲む企画がハイライト。さらに夜は町長のご自宅で朝獲れの伊勢海老を鍋にして囲むのです。

 あまりに面白かったので大手ホテルの知り合いに内容を話したら「そんなことができるなら、その企画だけでひとり10万円でツアーが組めるよ」とうらやましがられたほどです。もちろん、食の熱中小学校のツアーはそんなに高価ではないし、ほかにもイベント満載です。

 8月に十勝の芽室町で行われたツアーでは朝4時半にトウモロコシ畑に行き、夜明け前のトウモロコシを生のまま齧りました。トウモロコシは日光に当たる前のものを生で食べるのが一番うまいと聞いていましたが、まさにここでしか味わえない喜びです。

 食の熱中小学校が大切にしているのは、「体験」を提供することです。これまで一緒に築いてきた関係性と信頼があるからこそ、その土地の「一番面白い食体験」を企画することができるのです。

※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。この記事の情報は、本書の発売時のものになります。