環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は10月5日、大筋合意にこぎ着け、世界のGDPの約4割を占める巨大経済圏が誕生しようとしている。TPPの発効によって、恩恵を受ける者もいれば、損失を被る者もいる。果たしてTPPは日本経済にどんな影響を与えるのか、あらためて検証する。(週刊ダイヤモンド編集部 大坪稚子、千本木啓文)
「風向きが変わった」。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉をウオッチし続けてきたある専門家は開口一番、こうつぶやいた。
3ヵ月前にハワイで開かれた閣僚会合では、甘利明TPP担当相が「これが最後の交渉になる」と威勢よく発言していたものの、交渉はまとまらず、肩透かしを食らった。その時点で、TPPは漂流するのではないかとの見方も少なくなかった。
今回の閣僚会合も、当初2日間の日程では交渉が合意に至らず、もはや漂流は避けられないかに見えた。しかし、前回とは風向きが変わっていた。交渉は4日間も延長され、5年に及ぶTPP交渉は大筋合意にこぎ着けた。
風向きが変わった背景には、カナダ、米国、日本それぞれの国内政治事情があった。
まず、10月19日に迫ったカナダの総選挙だ。与党の保守党が苦戦しており、単独での政権樹立は難しいといわれている。政権交代が起これば、交渉は振り出しに戻る可能性が濃厚だった。
オバマ米大統領にとっても、来年2月の大統領予備選挙が始まる前に決着させなければ、選挙戦でTPPどころではなくなる。自分の代でTPPをまとめるというレジェンド(歴史に名を残すこと)を残すには今しかなかった。
日本は来年7月に参議院選挙を控える。TPPをできるだけ早くまとめた上で、農家に対策費を投じて票を確保し、安全保障問題で逆風が予想される選挙を乗り切るというのが自民党のシナリオだ。
尻に火が付いているカナダ、米国、日本の3国にとっては、今回が交渉をまとめる最後のチャンスであり、それ以外の参加国もそのことを十分承知していたのだろう。徹夜の駆け引きを繰り広げながら、交渉6日目に大筋合意に至った。会見に臨んだ各国首脳は、一様に安堵の表情を浮かべていた。