米国の肝煎りで進んでいた環太平洋経済連携協定(TPP)の成立が、にわかに怪しくなった。米国議会下院は16日に予定していた関連法案の採決を7月末まで延期することを決めた。背景には評決を急いでも成立は無理、という推進派の判断がある。大詰めに来てエンジンブレーキが掛かった。オバマ大統領の足元から反対の火の手が上がったからだ。
TPPは国家の主権を侵す。強者に都合のいいルール作りが弱者を追い詰める。格差を拡大する。TPPを厄介者と見る議員が増えている。有力大統領候補ヒラリー・クリントン上院議員でさえ「慎重論」を唱え始めた。
秘密交渉のベールの陰で資金力のある多国籍企業に都合にいい国際ルールを決めるのは、国民のためにならない、という正気に戻った議論が米国で渦巻いている。
日本ではTPPは農業問題のように取り上げられ、「攻める米国・守る日本」という構図で描かれてきた。攻めるのがアメリカなら、議会が「TPP撤退」で大揺れする現状をどう説明するのか。
日本のメディアは「混乱」と伝え、オバマ政権は求心力を失っている、と他人事のように描いている。交渉への影響を懸念するばかりで、なぜTPPがこれほど紛糾するか、根源を問い直す記事が少ない。
「弱者へのしわ寄せ」は彼の国でさえ問題になっているのに、アメリカに譲歩を迫られるばかりの日本はどうなのか。国会議員は、せめて米国議会並みの真剣さでTPPを議論してはどうか。
推進なのか反対なのか
ヒラリーの本心はどこに
ヒラリー・クリントンの「慎重論」だが、彼女はTPPに反対する民主党と推進派の共和党の双方から「賛否を明らかに」と迫らていた。国務長官だった2012年11月、「自由で透明で公正な貿易への道を開き、法の支配と公正な競争環境を実現する貿易協定のお手本」とTPPを持ち上げていた。ところがこのほど出版した著書「ハード・チョイセズ」にはこう書かれている。
「大企業の利益を抑える法律や規制を制定した国家を訴える権限を(投資家に)与えるTPPに反対だ」
どちらが本心なのか。そして6月14日、ヒラリーは集会で語った。「TPP反対」とは言わず、否定的な意味合いを込め、こんな発言をした。