「影響は日本の方が深刻なはずだ。このまま、問題を欧州委員会任せにしてしまい、日本として放置しておいて国益が守られる保証があるのだろうか」―。

 世界第3位の鉄鉱石サプライヤーである英・豪系のBHPビリトンによる同2位のリオ・ティント買収問題を巡って、公正取引委員会の対応に対する不満が高まっている。

 背景にあるのは、こうした資源メジャーのM&A(企業の合併、買収)が成功すると、国際鉄鉱石市場では一段と寡占化が進み、上位2社が市場シェアの8割近くを握る市場に変容してしまうという問題だ。このような寡占の進展は、今春猛威を振るい、日本の産業界を震撼させた、サプライヤーによる値上げ攻勢を、常態化させる原因になりかねないとの危機感を大手鉄鋼会社や自動車会社が強めているという。

 そこで、にわかに期待を集めているのが、長年、「吼えない番犬」と揶揄されてきた公正取引委員会なのだ。今こそ、我が国の独占禁止法を海外企業に適用する「域外適用」という「伝家の宝刀」を抜くべきではないか、との意見が高まっている。

資源メジャーの相次ぐ値上げに
産業界は共闘を唱えるが

 「以前から申し上げておりますとおり、終始、反対の意向を表明しております」。

 宗岡正二日本鉄鋼連盟会長(新日本製鉄社長)は6月23日の記者会見で改めて、BHPビリトンによるリオ・ティントの買収に反対してきたことを強調した。

 確かに、買収総額が1470億ドルに達するとされる、BHPビリトンによるリオ・ティント買収計画が昨年11月に公表されて以来、鉄鋼連盟は一貫してこの計画に反対してきた。鉄鋼業にとって欠かせない原料である鉄鉱石と石炭の2つの市場の競争が阻害されるとみなしていたからで、鉄鋼連盟に加盟する高炉各社は主要関係国の独禁当局に対してBHPビリトンのM&Aに関する異議申し立てを行ってきたという。

 そのバックグラウンドにあったのが、今春、資源メジャー各社が繰り広げてきた値上げ攻勢だ。鉄鉱石は前年度比で7割近い値上げとなったほか、強粘結炭価格も3倍に急騰したのは記憶に新しい。この猛烈な値上げ攻勢に対して、他に原材料を確保する術を持たない鉄鋼各社はその主張を受け入れざるを得なかった。その一方で、自動車、建材などのメーカーに対して過去に例のないほどの大幅な値上げを要請せざるを得なかったことも衝撃的だった。