TPP大筋合意のオバマ表明で
予感した中国世論の荒れ模様
10月5日(米東部時間)、日本や米国が主導し、他の10ヵ国とともに厳しい交渉を進めてきた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が大筋合意に達した。米アトランタで行われていたその最終交渉の模様を、私はワシントンDCでウォッチしていた。
同日、オバマ大統領がTPP協定交渉基本合意を受けて声明を発表した。「我が国の経済を成長させ、中産階級を強くするために、大統領としての毎日の時間を費やし、闘ってきた」と冒頭で切り出した同大統領は、「米国の95%以上の潜在的な顧客が海外に居る状況下において、中国のような国家にグローバル経済のルールを決めさせてはならない。我々こそがそれらのルールを書くのだ。労働者と生態環境を守るためのハイスタンダードを設定しつつ、米国の製品にマーケットを開かせるのだ」と米国のTPPへの意思とスタンスを表明した(米ホワイトハウス公式サイト参照)。
この声明を読みながら、咄嗟に「ああ、中国の対米世論は荒れるだろうなあ」という想像が、私の脳裏をよぎった。
「TPPって何? どなたか詳しい人はいる? 中国はどうすればいいのか?」
「これは米国が中国を封じ込め、アジア太平洋地域から締め出すための陰謀だ」
「習近平主席が米国訪問を終えた直後の合意。中国への見せかけであり、挑発だ」
同日、最近中国国内で流行しているソーシャルネットワークサービス“微信”(We Chat)で私が属しているいくつかの“群”(グループ)を覗き込むと、この手のコメントが氾濫していた。匿名の掲示板ではない。大学教授やジャーナリストをはじめとした知識人がクローズドな空間で、実名で発している言葉である。
フォローさえすれば、対象である言論が誰でも閲覧できる中国版ツイッター“微博”とは異なり、微信では互いに承認したユーザー同士しかその言論に触れることができない。最近の中国におけるソーシャルコミュニケーションにおいて、人々の関心とコミットメントはあからさまに、微博から微信にシフトしている。
「地上の言論空間が統制されている中国において、現在、微信の“群”こそが一種の議会であり、最も自由で活発な議論を交わすことができる舞台だ」
知り合いの中国人投資家はこう語る。この人物が属している群には、約30名が“在籍”しており、そこには、中国を代表するジャーナリスト、学者、企業家、そして政府のスポークスマンや閣僚級高官などが含まれる。「私はこの群での交流に1日4~5時間費やしている。頻繁に発言しないと、群の責任者からキックアウトされるルールになっている」(同投資家)のだと言う。