相続税1000万円超→実は50万円…税理士が警告する「無料試算」の落とし穴とは?
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを著書『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋し、お届けします。

相続税1000万円超→実は50万円…税理士が警告する「無料試算」の落とし穴とは?Photo: Adobe Stock

税理士が警告する「無料試算」の落とし穴とは?

本日は「相続と悪徳業者」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。

「将来発生する相続税を無料で算定します」

この謳い文句を見たら、「タダより高いものは無い」という言葉を思い出してください。2015年より相続税の基礎控除が大幅に減らされました。「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」になったのです。

これを受けて、相続税対策を謳ったビジネスが非常に大きな盛り上がりを見せています。健全に行う分には問題ありませんが、プロの目から見て、「これはダメでしょ!」と思うものも多々あります。その代表例が「相続税の無料試算サービス」です。

「無料試算サービス」の問題点

大手銀行や、証券会社、ハウスメーカー等で行われており、将来発生する相続税を無料で計算してくれるサービスです。このサービスにおける最大の問題点は、仮定条件を多く設定しすぎているため、実際の相続税とかけ離れた結果で報告をしている点にあります。

例えば「小規模宅地等の特例は考慮しておりません」という仮定があるなら、その計算結果はほとんど意味がありません。地価の高い地域においては、小規模宅地等の特例が使えるか使えないかで、相続税が何百万、何千万円と変わることはざらにあります。

他にも、「法定相続分で相続したものとして計算しています」という仮定がある場合も、実際の税額とかけ離れた結果になる可能性があります。配偶者の税額軽減と二次相続の関係があるからです。夫婦両者ともそれなりに財産を持っている場合は、夫婦間では相続しないようにして、「法定相続分通りに分けないほうがよい」ことも多々あります。

ちまたで行われている相続税の無料試算サービスは、そのあたりの性質をすべて無視しています。結果として、実態よりもはるかに大きい相続税額で報告し、世の中の人を過度に不安がらせている傾向があると感じます。

実例「うちでアパートを建てませんか?」

先日、「あるハウスメーカーから『このままだと将来、多額の相続税がかかり、税務署から土地を差し押さえられるかもしれませんよ? うちでアパートを建てて相続税対策をしましょう!』と営業を受けています。この話が本当なのか、プロの目から見てほしい」という依頼がありました。

相続税の計算をしたところ、小規模宅地等の特例を計算に入れれば、相続税の負担はたったの50万円。話を聞くと、その方は現在ご両親と同居しており、今後も同居を継続する予定でしたので、将来的に小規模宅地等の特例が使える可能性は十分にあります。にもかかわらず、ハウスメーカーが提示した無料の試算レポートには「小規模宅地等の特例は考慮しておりません」と小さく書かれており、1000万円以上の相続税が発生する結果になっていたのです。

もしその方がセカンドオピニオンをせずに、ハウスメーカーの提案のままアパートを建築していたらと思うと、複雑な気持ちになります。これは氷山の一角にすぎず、世の中ではこのような営業が山ほど行われていると思うと暗い気持ちになります。

相続税の試算(現状分析)は、医療でいえば人間ドックのようなもの。世の中で行われている相続税の無料試算サービスは、無免許医師から、「診断の結果、あなたはがんです(血液検査等はしていませんが)。このままだとまずいので、抗がん剤治療を始めましょう」と言われるのに近いことだと私は思っています。もちろん、ひとつひとつの試算を税理士に有料で依頼し、きちんとしたものを作成している会社もあるので、すべてダメというわけではありません。

相続税の計算は「無料」ではできない

将来発生する相続税を実態に近い金額で算出するのは、無料で行えるほど簡単ではありません。財産の評価額を正確に把握し、遺産の分け方を決め、小規模宅地等の特例が使えるかどうかを慎重に判断し、初めて実態に近い相続税額が算出できます。相続税対策で一番大事なのは、現状の正しい分析です。「安物買いの銭失い」にならないよう、用心してください。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)