前回、厚生年金の財政について、つぎのように述べた。

 厚生労働省の2009年財政検証では「賃金が毎年2.5%上昇する」と想定されているが、これは現実の値に比べて高すぎる想定だ。仮に毎年0.5%の低下とすると、2020年度における保険料収入は、財政検証では36.9兆円とされているが、27.1兆円にしかならない。2030年度における保険料収入は、財政検証では44.5兆円だが、24.2兆円にしかならない。赤字を積立金の取り崩しで賄ってゆくとすれば、積立金は2030年度までのどこかの時点でゼロになる。つまり、厚生年金制度は今から20年間さえ継続することができず、それまでのどこかで破綻する。

 これは、物事の本質を捉えるために、細かい計算をせず、簡単な近似計算を行なった結果である。この推測が正しいことを、以下では、もう少し細かい計算で検証してみよう。

「被保険者が減るのに
標準報酬総額は増える」とされている

【図表1】は、2009年度財政検証の「基本ケース」を示したものである。

 保険料算定の基礎となる「標準報酬総額」は、I欄のように想定されている。これにA欄の「保険料率」を乗じたものが、B欄の「保険料収入」になる(2016年度まではごくわずかな食い違いが生じるが、無視しうる差だ)。

 標準報酬総額の年伸び率を計算すると、表のJ欄のようになる。2024年度までは、2%を超える伸びとなっている。その後伸び率は低下するが、それでもほぼ1%程度で伸びることとされている。

 他方で厚生年金の被保険者数を見ると、現在は3440万人であり、2012年の3480万人までは増加するが、その後は継続的に減少すると予測されている。被保険者数伸び率(表のL欄)は、2030年度まではマイナス1%に達しないが、2030年度以降は、マイナス1%を超える。

 このように被保険者総数は減少するにもかかわらず標準報酬総額が増加するのは、「賃金上昇率2.5%」という仮定が置かれているからだ。実際、被保険者伸び率に2.5%を加えると、ほぼ【図表1】のJ欄の数字になる。