マネックスの松本大社長は「人間のもともとの能力に大きな個人差なんてない」と断じたうえで、長時間労働して始めて優れた仕事ができると説いている。努力の投入量によってアウトプットが変わってくるからだ。

 サッカー日本代表の監督を務めたオシム監督は、「サッカー選手は24時間サッカーのことを考えろ」と言っていた。イノベーションの専門家は、声をそろえて、数限りない失敗を当たり前のこととして覚悟することを説く。

 電通の「鬼十則」ではないが、一流の仕事をするためには、泥臭い努力が必要なのだ。仕事を成し遂げた人たちは、それを身をもって知っている。

残業ゼロ、休みの増加が
「普通の人」のコミットレベルを下げる

 たしかに、「わが社は残業ゼロ。社員には休日をしっかりとらせていますが、事業はうまくいっています」とメディアに取り上げられる企業はたくさんある。それが嘘だとは言わないが、後付けのケースがほとんどではないだろうか。「いいタイミングで、上り調子の業界に参入し、運よく当たった」「そして構造的にその優位性が継続できる状況にある」から、社員を5時に帰社させる余裕ができたのだ。しかし、そんな夢のような状況はあまり長くは続かない。いつかは事業環境が変化し、彼らも休日返上で必死に働かなくてはならなくなるはずだ。

 早く帰社して、仕事以外の活動をすれば、何らかの「気づき」を得ることはできるだろう。見聞を広げることもできる。それは私も否定しないが、そこで得た「気づき」がイノベーティブな仕事の本当の意味での「核」になるとは思えない。思いつきをビジネスで使えるレベルにまで昇華させるには、やはりとんでもなく努力を投入する必要があるし、嫌がる周りを巻き込んでいくことも必要だ。また、日頃からたくさんの思考錯誤をしている人と、そこまでの経験がない人とでは、得られる「気づき」の質も、到達できる「アイデア」の質も決定的に違う。