島田紳助の「仮説思考」!?
津田 とは言っても、ビジネスもお笑いも「決まった理論」がない世界ですから、そもそも学ぶべきことはかなり少ないでしょうね。
以前、有名なバラエティ番組をいくつも手がけたテレビマンの知人と話していたら、彼は「お笑いの理論と呼べるものを持っていた芸人は、島田紳助さんくらいだったんじゃないか」と言っていました。
石井 ええ、島田紳助さんの思考って、完全にビジネスマンですよね。たとえば、「M-1のネタの何秒に1回ボケがある」とか、そういうことを徹底的に研究していたり……。『紳竜の研究』というDVDが出ていて、それで見た記憶があります。
紳助さんがやっていることは、マッキンゼーで言う「仮説思考」です。まず仮説をつくって、それが当たっているのかを知りたいから、全部自分で試して検証する。ネタもそうだし、アイドルグループをプロデュースしたのもそうだし、お店をやったのもそうだし……。仮説→検証の作業をひたすらグルグル回しているんです。
津田 有名なのが、島田紳助さんがダウンタウンの漫才を見た瞬間、「おれらはもう終わりや……」と語ったというエピソードだよね。そういう意味でいうと、紳助さんは自分なりの「お笑い理論」をかなり蓄えていて、それに自信を持っていたんじゃないかな。
石井 だからこそ、まさにカウンターパンチくらったような気分だったんでしょうね。いろいろと仮説検証を繰り返して「これこそ漫才だ」と確信しかけていたときに、ダウンタウンさんがその理論から外れたところで大爆笑をとっていた、と。
津田 だから、それでガツンと来たのかもしれないね。
ビジネスもお笑いも「最初に定義した者」が勝つ
津田 一方で、理論というのとは違うかもしれないけれど、お笑いの世界でも一種の「フレームワーク」がありますよね。
たとえば「ものまね」。コロッケさんが出てきてからは、ほとんどのものまねは「コロッケのものまね」になっていたりするじゃないですか。
石井 「ものまねとはこういうものだ」というのを見事に定義する人が出てくると、みんながそのフレームワークの中で考えるようになっちゃう。
津田 そうそう、でも結局、本当にすごいのはそのフレームをつくったヤツなんですよ。それに乗っかった人、真似た人は別にすごくない。
石井 そういう意味では、お笑いの世界はフレームワークだらけで困りますよ。ものまねに限らず漫才とかでも「はい、頑張っていきましょう」「ちょっと聞いてよ、僕、○○やってみたいんだよね」とかって始めた途端に、それは過去の誰かのマネだという話になりますから……。
津田 いいね、いいね。そういう話を聞きたかったんですよ。
石井 津田さんはこの本(『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』)で「バカの壁」という言い方をされていますけど、ネタの世界でも「バカの壁」はあります。
本当はそのフレームワークの「外」に可能性があるのに、9割9分の芸人は「見たことがあるようなもの」の枠内でネタをやっていますから。