津田 たしかに新人さんをテレビで初めて見かけても、「ああ、この手のネタは見たことあるな」と感じることって多い気がする……。

石井 フレームワークに沿えば「面白いネタ」はできるんです。ただし、「テレビに出て売れる」という目的のためにはそれだけじゃダメなんだろうなと思います……。

私が思うには「面白い」に加えて「今まで見たことがない」「その人にしかできない」という2つの要素が必要です。その2つを満たすネタを思いつくには、既存のフレームワークの、つまり「バカの壁」の外側に目を向けないといけない。でも、私も含めてほとんどの芸人はなかなかそれができない。
逆に、それを見つけた人は、あっという間に売れるんですよね。

ビジネスもお笑いネタも「スタンスが無い」のは最悪

津田 何かマッキンゼーのスタイルで、いま芸人としてのキャリアに役立ってることってある?

石井 マッキンゼーにいたとき「クライアントの前に立つときは、嘘でも自信を持って振る舞え」と教わりました。自信なさげに話すコンサルタントを見て「よし、この人を信用しよう」とは誰も思いません。
お笑いの世界でも同じで、緊張や不安が見えてしまっている芸人のネタは誰も笑いませんよね。

津田 なるほど、そこはプレゼンテーションの根本的な部分ですよね。
ネタについてはどうですか? ネタづくりにマッキンゼー的な手法を取り入れているとか?

石井 たとえば、「スタンスを取る」ということでしょうか。どういうキャラクターで、どういった笑いを取りにいっているのかというのを、これでもかというくらいはっきりさせなければいけません。

津田 設定が曖昧だとお客さんの印象に残らなくて、「どうでもいい人」になってしまいますもんね。

石井 そういうことです。完全に1つのキャラに振り切る。自分の例になっちゃいますけど、なんとなくただの外国人を演じるのではなく、ヒラリー・クリントンをやるとか……。もちろんこれが正解かはまだよくわからないですけど。

津田 あとは、それがウケなかったときに、「今度はこっちを攻めてみよう」って切り替えられるのが大きいよね。フレームワークをつくった上で仮説を絞り込んで、それを検証するというプロセスだから、きわめてマッキンゼー的なわけだ。

石井 そうなんです。よくマッキンゼーでも「スタンスを取れ」と言いました。コンサルタントは「AかB、どっちでもいいと思いますよ」なんてことは、クライアントには間違っても言ってはいけないんだ、と。
確信が持てなくても「ここはAで行くべきです」とまずは明確なスタンスを取らないといけない。

そうすることで議論や検証が加速して、違ったとわかればすぐBに切り替えられますから。それが「答え」への近道だというのがマッキンゼーの考え方ですよね。
これはまさにお笑いでも言えることだと思います。養成所の先生も「私はこれで笑いを取りたいんだ」というのをはっきりさせろ、とよく言っていましたが、いま思えばそういうことなんだと思いますね。「そういった気概が人を笑わせられる」ということも含め。

津田 外したときには、「外した!」というのがはっきりわかるネタが理想的なんですね。

石井 そうです。私はちょっとイロモノ系のネタが多いので、正統派漫才とかをやっている人から見たら、亜流かもしれないんですけど、やっぱり振り切ったネタが大事で、あえてリスクを取ったときのほうが、結果的にウケるという経験が多いんですよ。

次回に続く)