激しいロビー活動と
実績に対する自信も勝因

 また、この専門家は「民間企業が主体となることで、政府の支出を低減させるやり方は、途上国のニーズがインフラの質よりも財政的負担の軽減にあることを中国は見抜いていたという証左だ」と指摘している。

 一方で、インドネシアには公的資金はジャワ島以外の他の島に振り向け、人口や経済が集中するジャワ島の開発は民間投資に委ねようとする政策がある。中国案はこの政策とうまく合致したとも言える。

 これに対し、日本案は債務保証に拘泥した。これが敗北につながったという説は有力だ。ちなみにこの「債務保証なし」というのは、事業主体への融資に返済リスクが生じた場合、それを相手国政府が返済するのを通例とするが、中国案はそのリスクも中国が負うことを意味するものだ。

 計画が最終的に中国の手に落ちた理由は他にもある。外交的揺さぶりもそのひとつだろう。

 党中央、国務院、国家発展改革委員会、外交部、国家開発銀行、そしてこれに中国鉄路公司が一丸となった激しいロビー活動である。

 また、“揺るぎない自信”もそのひとつだ。世界で最大規模にして最速の技術と管理――は彼らが自認する強みである。中国には、たった12年間で1万7000キロの高速鉄道を敷設したという成功体験があり、北京-上海を結ぶ1300キロの高速鉄道に至ってはわずか3年ほどで正式運行にこぎつけている。

 こうした経験を背景に、中国はインドネシアのジャカルタ-バンドン間の150キロを結ぶ高速鉄道も「3年でできる」と誇示した。完工は2018年。これは日本案の2021年の半分の工期に過ぎない。

中国の「一帯一路構想」に
インドネシアの思惑が合致

 中国にとっては、初の高速鉄道の海外輸出大型プロジェクトとなるだけに高揚気味だ。150キロの走行距離とはいえ、これを契機に今後はインドネシアの鉄道市場を独占できると見るからだ。

 中国はジャカルタ-バンドン沿線での「経済回廊」の構想も描く。インフラ建設とともに不動産開発や工業団地開発を進めれば、中国国内の産業チェーンの輸出にもつながると期待を深める。

 また、中国の受注をめぐって注目すべきは、中国の掲げる「一帯一路構想」とインドネシアが掲げる「海洋国家構想」のドッキングである。「一帯一路構想」が重視するのは「連結」、他国の交通を連結させながら、中国発の複数のルートを作り上げるこの構想に、インドネシアも利点を見出した可能性は否めない。

 ちなみに2013年10月、習近平国家主席は首都ジャカルタで「21世紀海上シルクロード」構想を発表したが、中国は互いに首位の貿易相手国であること、インドネシアがアセアンでも最多の人口を有する国家であることを理由に、2つの経済体が連結することの利点を強調している。中国にとってさらに重要なのは、マラッカ海峡、ロンボク海峡、ナトゥナ海峡などを有するインドネシアを、海上戦略上の攻略地点に組み込むことにある。

 他方、日本の経済界からは嘆息が漏れる。日本の商社幹部のひとりは失望を隠さない。