工場はおろか、ラインの1本も持っていないのに、日本のものづくりを支えるベンチャーがある。その名は「リンカーズ」。特筆すべき技術がある中小と大手メーカーをつなぐ革新的システムを世に出した企業だ。
1年かけても発注先が見つからない!
メーカーの開発現場が抱える構造的課題
大手メーカーの開発現場では、よい発注先に恵まれることが、計画の成否を分けることがある。具体的には「さびにくく、かつ軽い素材を複雑な形に加工したい」など難易度が高いニーズがあった時、これを実現できる発注先を知っているかどうかが、開発の鍵を握るのだ。
こんな時、大手メーカーに依頼され、受注先企業を探すのがリンカーズだ。前田佳宏社長は、2015年の日経イノベーター大賞の優秀賞を受賞。日本のものづくりの現場を支える、革新的なシステムとして、注目を集めている。
「日本に、いわゆる“ものづくり”を請け負う企業は約43万社あり、中でも特筆すべき技術を持っている企業は数万社です。弊社は、この数万社の技術情報を引き出すことができます。だから、メーカーさんのご依頼のほとんどに応えられるだけでなく『納期が最短』『最安値で受注してくれる』など、最もニーズに適った企業を選ぶことも可能です」
顧客には、トヨタ自動車やパナソニックなど、日本を代表する大手メーカーも名を連ねる。トヨタやパナソニックであっても、優秀な技術を発掘することは、なかなか大変な作業なのだ。
リンカーズはメーカーからの依頼を受けると、初めにどのような技術が必要か詳細にヒアリングし、全国の“コーディネーター”に向け極秘情報として送信する。日本各地には、自治体の産業振興課や半官半民の産業活性化協会などが存在する。そしてこれら組織には、地元の中小企業の技術を知り、大企業との間を取り結ぶコーディネーターが所属している。その数、全国で約1300人。この多数のコーディネーターが、リンカーズ発の情報に触れ、「ならば、この企業はどうか」と推薦してくれるのだ。
「大手メーカーからは『1年かけても発注先が見つからなかったのに、50社も推薦があるとは』などと驚かれることが多いですね。メーカーは弊社からの推薦を受けると、受注金額や納期などを元に発注先の絞り込みを行ない、最後は面談などをして発注先を決定します。弊社のビジネスモデルは、受注先企業を探す時に手付金をいただき、マッチングが完了したら手数料をいただく、というもの。その後はメーカーと受注先企業の2社間でお取引いただいています」
前田氏は大阪大学工学部の出身。リンカーズとは無関係だが、彼の父も東証一部上場企業を一代で育て上げた起業家だ。前田氏は父の跡は継がず、大学卒業後、稲盛和夫氏への共感もあって京セラへ入社した。その後、彼は「日本のものづくり全体を盛り上げたい」と大志を抱き、野村総研でのコンサルタントを経て独立・起業した。
「これが12年4月のことです。当初は“世界初の口コミネットワーク”を作ろうと考え、SNSのようなウェブサイトを立ち上げました。まず、自動車、電機、医療など様々なカテゴリーがあり、仮に自動車なら、ピストンピン、タイミングベルトなど、非常に細かい下部カテゴリーがあるサイトです。そして、ここに登録された業界関係者同志がfacebookのように、さまざまなテーマに沿って議論を行えるようにしていました」