認知症の人への接し方がなかなか多くの人に理解されない。
「記憶が消えて、その苛立ちから粗暴な行動に走る人」「突然大声を出して周りを困らせる人」「家を勝手に出て行って、そのあとを追い駆けるのが大変」――。こうした行動にはいずれも原因があり、それなりの理由がある。周囲からかけられる声や物言い、行動などで不快な思いをしても、なかなか反論できない。きちんと声を上げることができ難い。「それは違う」「やめて欲しい」と伝えられないもどかしい思いが募る。それが時に、周囲を惑わす言動となって現れる。
新しい事態や環境にすぐに対応することが難しいのが認知症の人たちである。そのため以前の生活と大きく異なる状況が目の前に現れると、なかなか馴染めない。そのストレスや軋轢が元で、周囲の人たちを戸惑わせる言動につながってしまう。深刻な事態を呼びみかねない。
こうした現場体験から、認知症の人が、かつて暮らしていた生活に出来るだけ近い環境や状況が大事だと判明してきた。言葉かけひとつでも、初めてのことには困惑してしまう。
そこで、以前の生活環境に近い暮らしをできるだけ「再現」する試みが生まれてきた。グループホームというケア様式である。スウェーデンで1980年代に創出された。小さな家庭的な雰囲気の中で、少人数で暮らすスタイルだ。
10人内外の認知症の入居者がスタッフに見守られながら、24時間、365日生活を送る。掃除や洗濯、調理、食器の片づけなど今まで自宅で行ってきた家事をスタッフも交えてみんなで取り組む。
かつての楽しい暮らしを思い出しながら過ごすと、落ち着いた気持になる。よく見知った世界に入ると安心感が沸くからだ。同じような試みとして「回想法」がある。
例えば、アルバムを見ながら子供時代や新婚時代を思い出す。若かったころに流行った歌を口ずさむ。認知症の人は、直前の行動は忘れても、昔の楽しい思い出はよく記憶に残っているからだ。
英国やオランダへの視察から、日本ではあまり見られない「回想法」に近い仕掛けについて考えていきたい。