9月20日まで1週間、高齢者ケアの視察のために英国のロンドンを訪ねた。この季節に3年続けている。今回は、認知症ケアに焦点を絞った。

日本では認知症家族を手助けする制度はまだ不十分

 英国独自の認知症専門機関「メモリーサービス」をはじめ、認知症高齢者が多く入居するナーシングホーム(日本の特別養護老人ホームにあたる)や家族介護者の支援団体などを回ってきた。

 なかでも、今回、特に強く印象に残ったのは、認知症の家族を手助けする専門の訪問看護師「アドミラルナース」の活躍ぶりだ。

 日本人には初耳の看護師名である。それもそのはず。ロンドンにある小さなNPOが生み出した草の根の市民活動なのだから。

認知症対策が国家戦略に
位置づけられている英国

 ロンドンの東北部、オリンピック会場になったストラットフォードからさらに先のグッドメイヤーズ病院。その広い敷地の一角に「レッドブリッジ・メモリーサービス」と書かれた案内表示が見える。レッドブリッジは地下鉄セントラル線の駅名でもある。

 看護主任のサリー・ブリーバントンさんがレッドブリッジ地区でのメモリーサービスの活動を振り返る。人口29万3000人の同区には65歳以上の高齢者は3万5600人。そのうち認知症を患うのは3008人だという。

 認知症と疑われる人は、かかりつけの家庭医から紹介されて、このメモリーサービスにやってくる。真っ先に血液検査を実施し、感染症などの病気があるかを調べ、その後に看護師などが自宅を訪問する。

 隣接のグッドメイヤーズ病院で脳の状態を見るためMRI撮影をしたり、医師が診断するなどしてアセスメントを行い、様々の職種のチームで議論し対応法を決める。痛みや不快な思いがあるか、服用している薬の種類は何か、さらにこれまでの病歴、生活履歴を調べる。

 抗認知症薬の投与を含めて3ヵ月間、本人に通ってもらって対応し、その後は家庭医に戻す。

 英国にはこうしたメモリーサービスが各行政区域に設けられている。認知症に特化して本人調査とケアの方法を提案し、数ヵ月間にわたって本人と向き合い関わる。

 英国は2009年に認知症対策を国家戦略として位置づけ、政府内に専門の部局を新設した。首相が先頭に立って認知症への対応に取り組んでいる。国家予算に占める認知症対応経費の増大に危機感が募り、政府が一丸となって始めた。その中の目玉政策がメモリーサービスである。

 各地に広がっているが、レッドブリッジのメモリーサービスは、そのチーム編成がなかなか充実している。週3日来る精神科医をはじめ、医師や主任看護師のサラさん、臨床心理士、5人の精神科看護師、作業療法士それに1人のアドミラルナースが加わっている。