医学的なことと
差別は別の話

白石 ただ、低線量被曝の危険性を訴えると、「福島を差別している」とバッシングする人もいます。

広瀬 そうです。私も、反原発運動を始めた36年前からそうしたことを経験してきました。私自身は常に、医学的な危険性を訴えましたが、長崎や広島の被曝二世、三世の人たちがやってきて、
「あんたがそういうことを言うために俺たちは差別される」
 と言われました。
 それを聞いて、私も最初はすごく悩みましたが、しかしそれを言うなら、水俣病の危険性も、放射性物質の危険性も言ってはいけないことになります。おかしいですよね。そこで彼らと何度も議論して、
医学的な危険性は、はっきりしましょう。それと障害者差別は別のことです。差別は日本人の民度の問題です
 と言って、何度も話し合って、理解してもらいました。人間の人格と、医学的な問題を混同してはいけません。日本人は民度が低すぎます。

白石 フクシマ原発事故の場合、広瀬さんが『東京が壊滅する日』で書かれたとおり、みんなが被曝者なのです。
 これを見てください。
 これは、チェルノブイリとフクシマ原発事故の被曝線量について、国連科学委員会(UNSCEAR──アンスケア)という国際機関が公表したデータを比較した表です。

 日本政府は、フクシマ原発事故は、チェルノブイリ原発事故より被曝線量が少ないから、健康被害は起きないと言っていますが、このデータを見るとほとんど一緒ですよね。実際、被災者の数もほとんど一緒なのです。

広瀬 この表にあるベラルーシのゴメリや、ロシアのブリャンスクは、染色体の異常が出ている最大の汚染地帯です。つまり遺伝的な影響がはっきり出た地帯です。
 その結果、ブリャンスクでは事故から10年後に、先天性奇形による乳児死亡率が、ロシア平均の5倍になったことが、アレクセイ・ヤブロコフ氏たちの著書『チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)に書かれています。
10年後ですよ。これからの福島がどうなるか、本当に心配です。

白石 ですからフクシマ原発事故の汚染地帯では、事故後に、「放射性物質汚染対処特措法」という法律ができました。
 この法律によって、年間1ミリシーベルト以上の汚染がある地域を、「汚染状況重点調査地域」として指定しているのですが、そのエリアに住む人口をあわせると、なんと700万人にのぼります。
 日本では、チェルノブイリのように、きちんと土壌を調べていないので比較は難しいのですが、これらの地域は、チェルノブイリの「汚染地域」とほぼ同じ土壌汚染をしていると考えられます。
 通常だと「放射線管理区域」と言われるような高濃度の汚染がある地域です。チェルノブイリでも、この「汚染地域」に住んでいる住民や避難者は、約690万人と推計されていますので、ほぼ同数なのです。

 ただ福島県内でも会津若松市や、千葉県の船橋市など、同レベルの汚染がありながら、指定を受けていない自治体もあるので、それらを含めると東日本を中心に全国で1000万人を超える人が被曝していることになると思います。
 それなのに、あたかも福島だけの問題、避難指示区域だけの問題のように矮小化しています。みんな被害者であるという認識を持たなければなりません。

 この図は、国立環境研究所の研究グループがフクシマ原発から放出した放射性物質をシミュレーションしたものです。
 2011年3月11日から29日までに、甲状腺ガンを引き起こすヨウ素131はどれほど降ったのか。その積算沈着量を示しています。
 私たちはみんな、これを吸いこんだのです。

 小児甲状腺ガンであると診断を受けた人は100人以上いますが、現状では、自分が被曝したということがわかると、家族に迷惑がかかると思い、孤独の中で苦しんでいます。けれど、実際には、多くの人が被曝しているのです。
 今後、小児甲状腺ガンになった人が、ひとりでも名乗り出れば、状況は変わっていくと思います。
 絶対に裁判で勝てると思いますし、ひとりでも2人でも、声をあげてくれたら、その人ひとりの問題ではなくて、多くの人たち全員を助けることになります。
 すでに、さまざまな不調を訴える人がたくさんいるので、つながっていけば、状況はよくなっていくと思います。

広瀬 本当にそうです。白石さんのお力も借りて、なんとか、みなでフクシマ原発事故の被害の実相を記録する作業を考えてゆきましょう。

 次回は、「日本で甲状腺ガンが激増する理由」についてお話ししましょう。

(つづく)