『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計282万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、OurPlanet-TVの白石草(はじめ)氏が初対談!
白石氏は『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』(岩波書店)で、具体的な固有名詞や数値を出しながら、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のその後を詳細にレポートした。
また、OurPlanet-TVでも、フクシマ原発事故に関する衝撃的な映像を日々公開している稀有な女性だ。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、37回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、白石氏がチェルノブイリとフクシマの現地で把握した事実と科学的データはあまりにも重い。
安倍政権によって、真実の声が次々消される中での対談2回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)
無責任に「安全」を布教する
山下俊一の正体
白石 今日は重要な本をお見せしたいと思います。
『チェルノブイリ事故の健康影響――四半世紀後の結果』(原題:HEALTH EFFECTS OF THE CHERNOBYL ACCIDENT-a Quarter of Century Aftermath)という報告書です。
ウクライナの報告書は、2011年4月に政府の緊急事態省が出版した『ウクライナ国家報告書(Twenty-five Years after Chernobyl Accident:Safety for the Future──National Report of Ukraine)が有名ですが、実はこの年8月に放射線の健康への影響だけをまとめた、もっと詳細な先の報告書が出されていました。
この本のページをめくって、冒頭に驚いたのは、長崎大学がこの報告書を作成していて、山下俊一氏が巻頭序文を書いているのです。
広瀬 ダイヤモンド書籍オンラインを読む人に紹介しておきますと、山下俊一は、長崎大学の原爆後障害医療研究所教授や、緊急被ばく医療研究センター長、日本甲状腺学会理事長を歴任した人物です。
つまり長崎では、被曝問題の権威なのです。フクシマ原発事故後、すぐに福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーに就任し、
「安定ヨウ素剤を今すぐ服用する必要はありません」
「甲状腺が影響を受けることはまったくありません」
「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人にはきません。クヨクヨしている人にきます。笑いが皆様方の放射線恐怖症を取り除きます」
と、被曝を放置する、無責任きわまりない発言を繰り返した重大な犯罪者です。
山下俊一の正体については、『東京が壊滅する日』にくわしく書いたので読んでください。
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
白石 その山下俊一氏が、ウクライナの報告書では、こう書いています。
「日本における最悪の原子炉事故からの早期の回復にとって、チェルノブイリからの教訓は間違いなく有用であり貢献するものである」
「人類に対する放射線の影響は、複雑であるが単純に二つに分類することができるかもしれない。急性影響と慢性影響、そして高線量影響と低線量影響である。それゆえ、緊急被ばく医療においてと同様に、低線量で低線量率の放射線影響とモデルの潜在的なインパクトを識別するのに、国際的な共同プロジェクトはきわめて重要である」
さらに、目次には「放射線の影響──チェルノブイリ事故を受けて発症した影響による病気」として、甲状線ガンはもちろん、白血病、固形ガン、細胞遺伝学的影響、免疫学的影響、持続的ウイルス感染、非腫瘍性疾患、心血管疾患、甲状腺障害、目や歯への影響などが載っています。
日本では、チェルノブイリの健康影響というと小児甲状腺ガンばかりがクローズアップされてますが、ここにはさまざまな疾病が並んでいます。
驚くのは、この報告書は、文部科学省の「グローバルCEO」の予算でつくったと書かれていますが、日本ではまったく流通していません。
ウクライナに連絡してみると、「長崎大学に300冊送った」というのですが、長崎大学に問い合わせたところ、「もともと20冊しかなく、すべて関係者に譲ったので、手元には一冊もない」と言われてしまいました。
結局、私はあらゆる手を尽くして、ウクライナ側から入手しました。
(Hajime Shiraishi)
早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に独立。同年10月に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。2012年に「放送ウーマン賞」「JCJ賞」「やよりジャーナリスト賞特別賞」、2014年に「科学ジャーナリスト大賞」をそれぞれ受賞。著書に『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』『メディアをつくる――「小さな声」を伝えるために』(以上、岩波書店)、『ビデオカメラでいこう――ゼロから始めるドキュメンタリー制作』(七つ森書館)などがある。
広瀬 驚いた。原発事故とさまざまな病気の関係がある事実について、長崎大学がお墨つきを与えている報告書が出回ると、具合が悪いから隠しているのだ!!
白石 重要な本ですから、文部科学省は日本語版を作成し、全国の大学や図書館に配布してもらいたいものです。
予防に努めるウクライナ、
事実を無視し続ける日本
白石 チェルノブイリ原発事故のあと、ソ連はさまざまな隠蔽を行いましたが、日本よりはマシであったと言わざるをえません。
たとえば、初期被曝について、ソ連では2万人以上の甲状腺を検査し、核種別(放射性物質ごと)のデータも残しています。
しかし、日本ではわずか1080人の子どもを、スクリーニング検査と称した簡易検査をしただけです。まともな実測データがまったく残っていません。
しかも、この不確かなデータにより、日本の被曝線量はチェルノブイリより格段に低いと決めつけて、きちんとした検診を実施していません。
これに比べ、ベラルーシやウクライナは、ソ連から独立後、1991年に施行された「チェルノブイリ法」という法律に基づいて、きめ細かな検診を行い、今も保養をはじめとする住民支援策を実施しています。
では、なぜ彼らが、これほど検診や保養に力を入れているのでしょうか。
それは、子どもを大切にするというお国柄もありますが、必ずしも人権意識が高いからではありません。ベラルーシのような専制国家が、なぜ子どもたちの検診や保養に力を入れるかと言えば、国家存続のためです。
広瀬 そうだったのですか。ECRR(ヨーロッパ放射線リスク委員会)では、「ベラルーシという国家がなくなるかも知れない」と言う人さえいます。人口が減り続けて……。
白石 子どもたちは、将来を担う希望です。子どもたちが元気に成長してもらうには、予防が大切だというのです。
しかも、現実的には、経済的な側面もあるようです。ウクライナの役人が、私にはっきり言いました。
「予防と治療では、どちらがお金がかかりますか?」と。
もちろん、治療のほうが大変です。だから早期に検診し、保養に行かせるという積極的な政策をとっているわけです。
ナチスドイツが、かつて障害者を大量虐殺したり、日本でも優生保護法が長年温存されてきたように、国家の強化や経済的な理由で保健政策を進めることには、大変な問題があります。
ですが、現在、ベラルーシやウクライナで実施されている、子どもの健康を最優先にする政策は、見習うべき部分が多いと感じました。
一方、日本は何もしていません!! 年間20ミリシーベルトという、チェルノブイリよりも4倍高い基準で避難解除をどんどん進め、そこに多くの人を戻すというのは、信じがたいことです。しかも、2018年には、すべての賠償を打ち切ります。
広瀬 日本は、「人殺し国家」です。マスメディアも含めて、被曝問題は最低の扱いです。自分たちがあぶないのに、報道界もバカばっかりです。これを、何とかしなければなりません。