どの業種でも「コスト削減」は頭の痛い問題だが、消極的になっていては始まらない。社員の士気を落とさずにコストを削減する方法が、「モチベーティブ・コスト削減法」だ。第1回では概論を紹介したが、今回は具体的に社員のモチベーションを下げずにコストを削減した事例を紹介しよう。

 埼玉県富士見市に本社を抱える渡辺住研は、社員数84名の不動産会社。賃貸の仲介やコンテナ事業などを行っている。同社はその業態から外回りの社員を中心に、「ボイスメール」と呼ばれる連絡手段を利用している。

 営業活動に直結する重要な連絡や指示、1日の業務終了時の報告などにこのサービスを利用している。肉声による連絡や報告は報告者の機微が伝わり、状況把握がしやすいことから重宝していた。

 しかし、業務用の携帯電話は支給しておらず、外出中の社員は個人所有の携帯電話からボイスメールのボックスに電話をかけるため、通信料は社員の個人負担であった。多数の部下を持つ管理職となると、1日に何十回とボイスメールにアクセスする必要があり、通信料がかさむという問題があった。

 そこで同社ではNTTコミュニケーションズの『.Phoneユビキタス』と呼ばれる050モバイルIP電話のサービスを導入した。同サービスは、050番号のIP電話をPHSサービス上で使うことができる。これにより、月額料金を支払えば、オフィス用の固定電話と社員が持つPHS間の電話料がすべて無料になる。

 結果、ボイスメールアクセス分の通話料が無料となったことにより、社員のボイスメールアクセスが増加。連絡・報告のスピードアップにつながり、情報の共有が積極的になったという。

 企業としても、毎月の通話料が社員間は定額になるので、財政的にも安定するというメリットがあった。社員のモチベーションを上げつつ固定費を抑える、まさに「モチベーティブ・コスト削減」に成功した形だ。

 gooリサーチによる中小企業の社員を対象にしたアンケートでは、「会社ではどのようなコスト削減が実施されたか」という質問に対し、「交通費の削減(出張費の抑制、タクシー代削除など)」(41.2%)、「残業禁止による残業代削減」(41.8%)、「交際費の削減」(34.2%)などに比べて、「通信費の削減」は27.1%と伸び悩む。その理由はなぜだろう。