大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月19日に発売された。在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど、多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。
今後の世界経済の命運を握る新興国。第4回では、近い未来に新興国が経済繁栄を迎えるのか、政情不安で失速していくのか、その伎路を分析する。
経済成長と政情不安を
同時にもたらす「中間層」
中間層(1日の世帯支出が購買力平価ベースで10〜50ドル)の台頭は政治的な問題も引き起こしている。ハーバード大学の社会学者サミュエル・ハンチントンらは、「中間層は生まれたときは革命家で、中年になる頃には保守的になる傾向がある」と指摘している。中間層は政治や社会の秩序を守る要になるが、それが自分の利益になるなら、という条件がつく。だから政治を安定させたいなら、国は中間層に良質な行政サービスを提供しなければならない。
中間層が民主化を要求するか、安定を選ぶかの選択は、人口動態も影響している可能性がある。アラブの春が始まる2年前の2008年、私はエジプトのホスニ・ムバラク大統領や、チュニジアのジン・アビディン・ベンアリ大統領などの独裁体制に対して、変革の要求が高まる可能性を予見していた。
1960〜1970年代に権威主義的だった韓国や台湾などの国では、中間層が拡大し、若年労働人口が増えると、政治的自由化を求める圧力が高まった。北アフリカの主要国(リビア、エジプト、チュニジア)では、2000〜2020年に同じような条件がそろいつつあった。だが中東では、どんな変革も容易に進まないことはわかっていた。
韓国と台湾では経済が上向いていたからスムーズな民主化が可能になったが、エジプトでは若者の大部分(高学歴者を含む)が仕事を見つけるのに苦労している。東アジア諸国が豊かになったのは、政府が普通教育によって労働力の質を急速に改善するとともに、輸出産業の育成に力を注いだからだ。