国際通貨基金(IMF)は、中国の人民元を「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に採用することを正式に決めた。2009年3月のG20サミット開催前に、中国人民銀行の周小川総裁が「米ドルに代わり主権国家の枠を超えた存在であるSDRを準備通貨にすべきである」と主張するなど、中国はSDRに対して特別な思い入れを持ってきた。「人民元の国際化」を推進してきた中国にとって、人民元がSDRの構成通貨の一角となることは悲願であったといえる。
一方、当時日本は、G20で麻生太郎首相が「ドル覇権体制の永続」を主張したが、「SDR準備通貨化」の中国以外や、影響力拡大を目指すその他新興国、世界共通通貨を作る構想を示唆した英国、多極的な基軸通貨体制を視野に入れた仏露などの間で孤立した(前連載第11回)。「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の設立時に続いて、保守的な枠組みに拘った日本は、国際社会で急激に影響力を強める中国に対応できていないように見える(第103回)。
シーパワーの対中国戦略:
中国沿岸部(リムランド)を取り込むこと
今回は、急拡大する中国に、日本がどう対応すべきかを論じたい。日本政府は、AIIBで中国と距離を置いたことに加えて、10月に交渉がまとまったTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についても、安倍晋三首相が「自由、民主主義、人権、法の支配という普遍的な価値観を基礎とする(TPPという)構想の進展を歓迎したい」と発言した。TPPを、非民主的な中国を排除し、中国の経済面、政治面、安保面での拡大を抑える「防波堤」だと考えているようだ。
しかし、この連載では地政学をベースに、日本は中国経済に対して積極的に関与する戦略を持つべきだと主張してきた。地政学的に考えると、日本、米国、英国など海洋国家(シーパワー)の戦略は、ユーラシア大陸中央部(ハートランド)に位置する大陸国家(ランドパワー)の拡大を抑止するために、ハートランドの周縁に位置する「リムランド」を取り込むことである(前連載第64回)。
経済成長著しい中国沿岸部は、「リムランド」の一部と見なすことができる。これをシーパワーが取り込むとは、「積極的に中国の経済発展に関与することで、中国を欧米ルールに従う市場経済圏として発展させること」であり、「中国が資源ナショナリズムに走らせず、海洋権益に手を出すことのデメリットを認識させる」ということになる。